作品
誇り
「黒鷹……」
「うん?」
「……悪い」
呟きの後に玄冬の指がそっと私の背中に触れる。
ピリと微かな痛み。
その痛みに、先程の行為で玄冬がしがみついた時に、爪を立てていたことを思い出した。
「何、対した事はない。気に病む必要はないよ」
「……でも、前のも痕が残ってる」
「そうなのか。なら、それは勲章だな」
「なんだ? それ」
「ん? 要は君が我を忘れて、私にしがみつくほどに感じ……」
「いい、それ以上口にしなくて」
呆れたような声。だけど、その後の呟きは心なしか少し辛そうに聞こえた。
「黒鷹には、俺の所為でついた傷が沢山あるな」
視線を感じたのは左腕。手の甲からひじ近くにかけての傷。
かつて、玄冬を庇って熊にやられた時のものだ。
……やれやれ。君がそんなに気にしなくてもいいのだけどね。
「全て、名誉の負傷というやつだ。私は誇りに思うよ」
私では君に傷をつけることは……所有の証を、その身に刻むことさえ叶わないから。
その分も私が負っているのだと思えば、嬉しいことなのだ。私にしてみれば。
「……でも、痛い思いをさせてるのに変わりはない」
「そんなのは一時のことでしかない。……覚えておきたまえよ、玄冬」
言葉にしても、君は気にしてしまうのだろうけどね。優しい子だから。
「君の与えてくれたものは、喜びも哀しみも傷も痛みも何もかもが全て。私の誇りなのだということを」
2004/06/16 up
元々はWeb拍手で使っていた話。黒鷹視点。
- 2008/01/01 (火) 00:01
- 黒玄