作品
こだわり
「……暑い」
「……そりゃ暑いだろうな。そんなの被ってれば」
淡々とした玄冬のつっこみに、黒鷹が一瞬言葉を失う。
季節はおりしも夏。服装こそ季節に沿った軽装になっているが、
黒鷹は何故かいつもの帽子については被ったままなのである。
日よけになるのならまだしも、帽子は熱を吸収する黒。暑さを増すのは当然と言えよう。
「それを被るのを止めるだけで、少なくとも今よりは涼しくなるんじゃないか?」
「……それは断る」
「何でだ? そう被ってることにこだわるのは」
寝る時には、普通に帽子なんて被らず寝ているのに。
少しの沈黙の後、黒鷹が溜息とともに呟いた。
「……君が悪い」
「……あ?」
「君が! 何時の間にか大きくなって、私の身長を追い越したりなんかするからだ!」
思いもよらなかった理由に開いた口がふさがらない。
確かに、少し前から目線は玄冬の方が上になったが、
帽子を被った状態だと黒鷹の方が背が高いように見える。
「……子どもか、お前は……」
「だって、親として悔しいじゃないか」
「……『親』としてじゃないだろう。本当は」
玄冬の言葉に、一瞬黒鷹が目を見開いて…次の瞬間、口元に笑みを浮かべた。
そう。親としてなら、背を追い越されることに寂しさは覚えても、悔しいのではない。
「ああ、そうだね。親としてではないのかもしれないね」
「……ったく。熱射病になっても知らないぞ」
「なったら介抱してくれるだろう? 君は」
「……知るか」
玄冬の目許がほんのりと赤く染まった。
背は追い越したかも知れないが、まだまだ黒鷹には敵いそうにない。
2004/06/20 up
Web拍手用に作った話。季節ネタで帽子ネタ。
数少ない当事者たちの視点で書いてない話の一つです。
脳内設定の一つに玄冬が黒鷹の身長を追い越したのは20歳過ぎてからというのがあるのですが、追い越された当時すごく複雑だっただろうなー。(笑)
子どもみたいに拗ねる黒鷹を書きたかったのでした。
年齢制限有のNovelにはこれの裏バージョンがあります。
- 2008/01/01 (火) 00:02
- 黒玄