作品
Fiore di ciliegio
あの子が静かに眠っている。
仄かに甘い香りに包まれて。
優しい色の花を咲かせる、君の好きだった花。
君が眠るこの場所を私は日に一度は必ず訪れる。
樹の幹から伝わるぬくもりは、時折君に触れているような錯覚を起こさせるからだ。
色んなことを思い出すよ、共に過ごした優しい記憶を。
ここに眠っているのは君の抜け殻なのだとわかってはいるけれど、それでも、春も夏も秋も冬も。
花の咲いている時でも、咲いていない時でも。
この場所で君を想い、時を過ごすのはそれなりに幸福だ。
一時だけど、寂しさを忘れさせてくれるから。
――また野菜を食わない気か、お前は!
――だって、そんな嫌味のようにお重一杯に詰められた日には食べる気もな……。
――黒鷹。
――…………う……わかった、少しは食べる。食べるからそんな目で見ないでくれたまえ。
我が儘なものだ。
全く口にできないかと思うと玄冬が作った野菜料理の味さえ懐かしい。
君の作った料理が食べたい。話がしたい。触れていたい。
君が私を呼んでくれる声が聞きたくてたまらない。
愛しい子。早く生まれておいで。
君をこの腕に再び抱けるのが何よりも待ち遠しいのだから。
2005/04/06 up
Web拍手で2005年~2006年1月下旬まで出していたうちの1本。
- 2008/02/01 (金) 00:09
- 黒玄