作品
救世主(黒玄前提救鷹)
「……終わったよ」
どこか虚ろな赤い瞳。
冷えた声音で無表情にそれを告げられる。
何を指してるかなんて解りきっていた。
あの子が逝く瞬間に傍にいなくても、遠目で見てはいたし、何よりもあの子が逝くと身体を裂かれるような喪失感を感じる。
それが何よりの証拠だった。
「知っているさ。ご苦労だったね、有り難う」
「……何ソレ。なんで礼なんて出てくるの?」
わからない、と言った表情でいぶかしむ彼にただ笑う。
「苦しませずに逝かせてくれたのだろう? だからだよ」
一突きだった。
苦しむ間もなくあの子は逝った。
「……憎くないわけ? 俺、あの子殺したんだよ?」
「あの子の望みだ。そして、私の望みでもある」
殺し続けてくれと望んだのはあの子。
それに応えたのは私。
君は私たちの意志に沿って動いただけだ。
私ではあの子を殺せないのだから、私の代わりに君があの子を殺す。
「幾度も死なせる代わりに、幾度もあの子をこの腕に抱ける」
優しくて残酷な願い。
だけど、甘い誘惑でもあった。
あの笑顔に幾度も逢えるなら。
名前を呼んで、私を求めてくれるなら。
「君を憎むのはお門違いだ。
私たちこそ君に恨まれても仕方ないと思っているよ」
「そうやって……」
「うん?」
「アンタたちは他者を受け入れないんだね」
「そうなのかな」
「永遠に二人きりなんだ」
「……そうかも知れないね」
笑う私に彼は笑わない。
私の肩に頭を預けて、小さく呟く。
「俺は『救世主』だけどさ。
アンタにとっては違うんだね。
アンタの『救世主』は玄冬だけなんだ。
アンタを救えるのは玄冬だけ」
いっそ大声で笑いたくなった。
「そうだよ。今更知ったのかい?」
あの子の存在だけが私を生かしている。
「君に私は救えない」
肩に食い込んだ爪の痛みに顔を歪めながらも、私は笑い続けていた。
玄冬に嫉妬する救世主なんて笑い話にもならないよ、君。
2005/04/16 up
「花帰葬好きさんに15のお題」(閉鎖済)で配布されていた
お題のNo5を使って書いた話です。
未来組アンソロ寄稿の忘れ雪は春の始まりをちょっとベクトル変えてみたら、何故かこんな風にw
ほんのりラブラブ救鷹方面に行く予定がどこで違ったんだろう。
どう見ても殺伐とした救鷹(笑)
- 2010/01/01 (金) 00:04
- 黒玄前提他カプ