作品
黒の鳥
「『玄冬』には守護する『黒の鳥』がいるらしいね」
酒場は噂の回りが速い。
そしらぬ振りをして、私はあちこちの地の酒場で『黒の鳥』の噂話を振りまいた。
「飛んでいるところを見ると不幸が舞い込んでくる」
「肉食で子どもを攫っては取って食う」
などなど。
思いつくものを片っ端から上げていって。
そうやって、確かに言いふらしたのは私自身であることに違いはない。
面白がってやっていたことも否定はしない。
だけれども。
「後悔しているだろう」
「……していないよ」
「強がるな。複雑そうな顔をしてるぞ」
噂はひとり立ちする。
尾ひれがつくというやつだ。
気がついたら、威力が増していた。
「目の前を過ぎると三日以内に身内が死ぬ」
「口が三つあり、三人の子どもを同時に食らう」
見事に化け物扱いだ。
玄冬と一緒に買い物の為に里に降りたりすると、最低でも3回はこういう言葉を耳にする。
「今からいい事を言いふらしても……」
「無駄だろうな。いぶかしむか、怪しまれるかのどちらかだ」
「う」
「諦めろ、自業自得だ」
少しは傷心の父を慰めてくれたまえよ、玄冬……。
2005/06/15 up
昔、ここで配布していた「黒鷹好きさんへの10のお題」からNo10。
黒鷹視点。珍しくギャグ方向に走った話。
- 2013/09/09 (月) 19:14
- 黒親子