作品
心臓の音が途切れた
微笑った顔のまま、黒鷹の鼓動が聞こえなくなった。
いや、聞こえなくなったのは、俺の耳が遠のいたからだろうか。
かろうじて動く手を黒鷹の胸の上に翳す。
伝わらない鼓動。動かない黒鷹。
「……共に逝かせてくれと。一緒に眠ろうと言ったくせに、な」
顔に掛かる髪を掻き揚げてやる。その表情は予想以上に穏やかで。
また会ったら恨み言をぶつけようかと思いかけてやめた。
幾度も一人にしたのはそもそも俺だ。
あいつの方こそ、こんな思いを数え切れないほど繰り返したはずだ。
置いていかれる。声を掛けても返事はない。
それがどんな感情を齎すかを初めて知った。
いつも、置いていくのは俺だった。
「……なるほど、一人は嫌なものだ」
たとえ、それが僅かな時であったとしても。
本当に約束を守ってくれて有り難う。
そして……すまなかったな。
目を閉じて、浮かんだ黒鷹の笑顔に詫びた。
またお前に会えるだろうか。
2005/04/13 up
Abandonで配布されている「死に関する10のお題」より。
「花帰葬好きさんに15のお題」での約束、別バージョン。
玄冬視点。うちは心中ネタにするとどうも玄黒っぽい傾向が。
心中持ちかけるのが鷹からだからか……なので、玄黒に変更。
- 2013/09/09 (月) 12:05
- 玄黒