作品
血塗られた祈り
人が人を殺し過ぎれば。君は生まれて来る。
それはこの箱庭が続いていく限り、永久に繰り返されること。
人は愚かな生き物だから。
時に自分の為に、または愛する者の為に。
自分とは関わりを持たない相手には、同じ生きているものだという意識も忘れて、己のエゴを貫く。
自分自身に大切に思うものや愛するものがいるように、その相手にだって、大切に思うもの、愛するものがいて、また誰かに大切に思われ、愛されているのだということには気がつかずに。
そう、ただ『玄冬』を世界を滅ぼす忌まわしいものだから、殺さなければという彼ら。
玄冬にも大切に思うものがいて、愛するものがいて。
また彼を大切に思い、愛するものがいるのだと、そんなことには気がついていない。
それとも、『玄冬』にはその資格さえないとでもいうだろうか?
……どうでもいいけれど。
彼らが自分のエゴを通そうとするように、私も自分のエゴを通すだけだから。
もう冷たくなってしまって、床に伏せていたままの玄冬を抱きかかえる。
その顔は穏やかで。
心臓を一突きにされたのなら、苦しみはしなかっただろう。
返事が返ってくることはないとわかっていながらも、そっと耳元で呟いた。
「……これで満足かい、玄冬」
幾度も君に会いたいと願った。
その度に殺してくれという願いをきいた。
だから、残酷な約束を私はただ守り続けていく。
私と君のエゴから生まれた、その望みを。
そしてまた願う。祈りをこめて。
「また、君に会えるのを楽しみにしているよ」
少しでも早く、この子が生まれてくるように。
いくらでも殺しあえばいいと。
どうせ、人が人を殺めることを留めることができないのならば。
祈ることくらいはしてもいいはずだ。
血塗られた祈りだとわかっていても、それが届く日をただ待っている。
私の愛しい子が生まれて来る、その時を。
2004/08/01 up
雪花亭で配布されている
「花帰葬好きさんに22のお題」よりNo17でした。
- 2013/09/11 (水) 08:20
- 黒玄