作品
ちいさな願い
それはたった一つの願いだった。
生まれて初めて、本当に心を許せた相手。
安らぎをくれた君を、どうしても失いたくなかった。
――玄冬を死なせたくない。
だけど、君は『玄冬』で、僕は『救世主』。
断ちきれない縁は決して望む形のものではなく。
君が自分で首を斬ってまでも死を望んだときに、せめて目が覚めたら全部忘れてしまっていればいいと思った。
それが、僕やトリと過ごした時間さえ、君の中に残らないことを意味しているのだとわかっていても。
***
君が望んでも、ちびっこ以外にそれを叶えることはできない。
だから、何があろうと、君を傷つけるのがちびっこ以外ならば、例え、君自身であろうと死ぬことはないのだと。
わかっている。
……わかっていた。
だけど、君が自分で首を斬った時に心底ぞっとしたよ。
そこまで思いつめていたのかと。自分の存在を。
自分で死を選択することはして欲しくなかったのに、生を選んで欲しかったのに。
だから、あの子の願いが彼の『救世主』としての力に呼応して、
君の記憶を『攻撃』したときに力を貸した。
あの子の力だけだと、君の精神全てを壊してしまう危険もあったから。
君と過ごした日々を忘れられてしまうのは辛いと思ったが、私もちびっこもそれを覚えている。
『死』をまた望まれてしまうよりはずっといい。
君が自分で自分を傷つけようとするところを見るよりも。
……結局、私たちの願いは一緒なんだよ、玄冬。
本当に、ささやかな願いだったんだけどね。
***
なのに、君は。
私たちの、
僕たちの、
願いをきいてはくれない。
残酷だ。
酷いよ。
なのに、どこまでも優しい。
だから、期待している。また次に優しい君に会えるのを。
優しい私の子に会えるのを。だから、今はお休み。
優しい、大好きな玄冬。
可愛い、愛しい我が子。
君が本当に好きだったよ。
2004/08/17 up
雪花亭で配布されている
「花帰葬好きさんに22のお題」よりNo4でした。
約束EDベース話。
黒鷹と花白はある意味共犯者的なところがあるので、展開によってはいいコンビだと思ってます。
このサイトの花白の扱いは不憫気味ですが。
- 2013/09/11 (水) 08:23
- 黒玄