作品
須く、須く~Ver.Y
「ん…………」
私の腕の中で玄冬が少し身動ぎ、起きたかなと思ったが、また、寝息を立て始めた。
あどけない表情がなんとも微笑ましくて、そっと髪を撫でた。
すると、心なしか表情に少し笑みが混じる。
それが本当に可愛くて、強く抱きしめたくなるのを堪える。
起こしてしまうからね。
でも本当は抱きしめてしまいたい。
もう、こうしていられる時間が残り少ないのを知っている。
また時が来る。
命の器が満ちる時が。
この子を殺さなくてはならない時が。
遠い昔、交わした約束。
次の君にまた会うために、今の君を殺す。
何度それを繰り返したかも、とうに忘れて久しい。
この世界になんて、本当に未練はない。
一人、繰り返し殺されていく優しい子の存在も知らず、安穏と暮らす人々に興味はない。
滅びてしまうなら、滅びてしまえと。
……そう思うのに、あの言葉が何時までたっても私を縛っている。
――お前に育てられて、花白に殺される人生なら、何度繰り返しても悪くないと思う。
君がそれを望むのなら。
愛しい我が子。優しい残酷な願いを叶えよう。
もう一つの方法を告げられなかった、償いにさえならないけれども。
私も君に会いたいから。
何度でも抱きしめて、口付けて、触れて、繋がって。
君と共に過ごせる時間ほど、今の私にとって大事なものは他にない。
君のいない時間に、感じる空虚さに哀しくなっても、一緒に在る時間の記憶を抱いて過ごしていく。
そうやって、何度でも君を育てて、愛していこう。これからも。
それが互いの望みでもあるのだから。
2004/12/23 up
かつて別HNで立ち上げていた超短文黒玄サイト閉鎖後に
裏サイトでこそりと元来の文章にして書いたもの。
無理やり使った言葉はさっくりと消しましたw
というわけで別HNバージョンはこちら。
- 2013/09/12 (木) 01:20
- 黒玄