作品
監禁
何度目の輪が巡ったのだろうか。
「……く……っ…………」
――これが済んで、次に俺が生まれたら、必ず殺してくれ
「もう、あれからどれほど経っただろうね」
――これから世界が続いて、俺が生まれる限り、俺を殺しつづけてくれ
「あ……う……」
――言っている意味は解るだろう。……お前にしか頼めないんだ
「あの言葉は効いたね……。つくづく私は君に甘いのだと思ったよ」
自分でも気が知れない。あの約束を守り続けてしまっていることが。
「さ……きから……何……」
――お前に育てられて、花白に殺される人生なら、何度繰り返しても悪くないと思う
「……こんなことをされてもまだそういうのだろうか」
――だから、頼む。黒鷹――
「つ……っ……」
――俺はお前に育てられて良かったと思う
「いっそ…………!」
約束を反故にしてしまいたい。
繰り返される一時の楽しさと永い苦しみはいつまで続くのか。
***
「……何故、責めないんだい?」
酷い抱き方をした。
身動きのとれないように拘束した上で、痛みを訴える声にも構わず、貫き続けた。
苦痛を感じてないはずはないだろうに、玄冬は何も言わない。
「お前が……」
「うん?」
「お前が訳もなくあんなことをするはずがないから」
「玄冬」
「……そんな泣きそうな顔をしてる相手に、どうしろと?」
「……っ!」
どうして、そんな優しい声を出す?
今回の君も……私を殺してはくれないのだね。玄冬。
何度生まれてきても、君は他人を思うばかりだ。
そうやって育てているつもりはないのに。
情けない顔をしているのを見られたくはなく、そっと玄冬の肩口に顔を押しつけたら、抱き寄せられ……まるで私が玄冬が子どもの頃にしてやったように、背中を撫でられて泣きたくなった。
***
「解るでしょう? 貴方にも……また命の器が満ちるのが」
「……ああ」
「もう猶予はありません。
明日、救世主と共に貴方がたのところに向かいます」
***
「咎……なのだろうね、やはり」
「黒鷹……?」
君に幾度も会えるという誘惑に負けた。
君が殺される都度に心が悲鳴を上げながら、それでも私は君と一緒にいられる時間を選んでしまった。
私を赦してくれとは言わない。
いや、赦さないでほしい。
沢山謝りたい。
だけどそれは赦されなくていいから。
「君は……何も悪くないんだよ」
Tu mancavi a tormentarmi,crudelissima speranza,
――お前は私を苦しめていなかったのに、限りなく残酷な希望よ――
e con dolce rimembranza vuoi di nuovo avvelenarmi.
――甘い追憶をもって私を新たに苦しめようとする――
La ferita-ancora aperta par m'avverta-nuove pene.
――まだ口を開けている傷は私に新たな苦しみを告げているようだ――
Dal rumor delle catene mai non vedo allontanarmi.
――私は鎖の響きから遠ざかれそうもない――
今の君との最後の夜。
せめて、想い出は残せてやれてたらいいと。
閉ざされた世界の中で、私と過ごした時を。
そして、次の君こそは私を殺してくれるといい。
……我侭な願いを抱くことくらいはしてもいいだろう?
2004/06/04 up
「惑楽」(お題配布終了)で配布されていた
「萌えフレーズ100題」よりNo59。
後、黒翼祭出展&個人誌収録した、約束と後悔の残酷な方程式(玄冬Ver.&黒鷹Ver)の原型がこれです。
でもって、これが以降うざいくらいに多くなった春告げの鳥話の一番最初の話でもあるのです。
元は裏扱いでしたが、具体描写なかったので、表扱いにしちゃいました。
約束と後悔の~がUnderなのと、タイトル的にアレなので、どうしようかとは思いましたが。
ラストのイタリア語は「Tu mancavi a tormentarmi(お前は私を苦しめていなかったのに)」
というイタリア歌曲から抜粋。
- 2013/09/22 (日) 01:05
- 黒玄