作品
音の無い声
「…………!」
熱い空洞の中に、やはり熱い楔を穿つ都度、押し殺された声が耳に届く。
背に回された腕には力が篭もる。
それが縋られているようで、求められているようで、どうしようもないほどに愛しいと思う。
苦しみ、悦び、痛み、ぬくもり。
二人だけの秘め事。
熱を、鼓動を。
相手と共有できることの嬉しさについ笑いそうになる。
「大丈夫かい?」
間近にある顔は苦痛とも悦楽とも取れる。
いや……両方かな。
額に浮き出た汗を指先で拭い、そのままはりついた髪を剥がしてやると、熱に霞んだ目で言葉もなく頷いた。
……何かを言う余裕も今日はないらしいね。
だけど。
「……私も、もうあまり余裕がないよ」
すまないね、と小さく耳元で呟くと、絡みついた腕の力が強くなった。
促されて、動きを強くする。
熱を感じて、脈動を感じて、震えを感じて。
……お互いに音にならない声で叫んだ。
愛しい相手への想いを、熱の開放という形に変えて。
***
「……黒鷹」
「うん?」
呼ばれた声に振り返るけど、どうにも反応が妙だ。
「玄冬?」
「ん……」
「……寝言、なのか」
夢の中でまで、私を呼んでくれるのかと思うと微笑ましい気分になった。
「……何の夢を見ているのかね、君は」
すっかり穏やかな顔で眠っている、その額に軽く口付けを落とした。
君が起きたら、また抱こう。
そして紡ごう。愛しさを表す言葉を。
だから、今は心の中でだけで呟く。
――私の可愛い子。誰より何より。君が愛しい。
2004/10/13 up
雪花亭で配布されている
「花帰葬好きさんに22のお題」よりNo8。
色んな意味でぎりぎり(笑)
- 2013/09/27 (金) 00:32
- 黒玄