作品
yes,my dear
――お前も、ここで俺達の様に生きる事だ。
最初の玄冬はそう言った。
私達『鳥』や『主』が諍いの絶えない世界に価値を感じていないかも知れないのは、私達がこの世界で生きていないからだと。
確かにね。どうでも良かった。
私は君を守るのが役目で、それ以外は何があろうと関係ないと思っていたから。
それでもその言葉は心に残っていて。
……もう一度会いたいと、もっと近くにいられたらと思ったんだよ。
欲深なのだろうね、私は。
あれで終わりにはしたくなかったんだ。
そうして、また君が産まれてきて、今度は自分で育てて。
初めてモノクロのようだった世界に色がついた。
この身に余るほどに色々なものを得られて。
初めてわかったんだよ。
『ここ』で生きると言ったその意味を。
だから、君にもその生を意味のあるものにして欲しかった。
『玄冬』としてではなく、君個人として。
美しくて醜い、この世界を愛して、その世界で生きるものたちを愛して、そして、人と人が触れ合うことで知る痛みも喜びも悲しみも楽しみも、全て愛しいと思って欲しかったから、それを教えた。
昂ぶり。熱。鼓動。体温。吐息。睦言。
全てをその身体に刻み込むことで。
もしかしたら、それによって君が自分でなく、私を選んでしまうかも知れないと恐れつつ……どこかでほんの僅かだけ期待もしていたかも知れない。
それでも、君があの子に会いたいのだと、そう言ったことに安心した。
枷となっていた銀の紐を受け取ってくれて良かったと。
……だから最後の瞬間まで、私は君を想って逝ける。
「そんな顔をしないでくれよ。
君がそうして立派に育ってくれて、私は嬉しい。……それで十分だ」
泣きそうなのを堪えているような顔についそう言った。
せめて、最後くらい微笑った顔を見たいじゃないか。
何も言わなくたって、君が何を言いたいかなんて解っているよ。
何年、一緒にいた?
どれほど触れて、話をしてきたと思っているんだい?
「…………黒鷹……」
呼ばれる名前が嬉しい。
君に呼ばれる名前は何より意味を持つから。
「…………お前が、俺の鳥で良かったと思う」
ああ、だから。
そんな風に君が思ってくれるから。
私の子で本当に良かったと。
……言いかけてやめた。今更だ。
きっと私が言わなくても、解るだろう?
私が君の言葉が解るように。
本当に、本当に。
君と一緒に過ごした時は楽しかった。
微かな名残を惜しんで、額に口付けて。
君が紐を引き千切る。
またいつか、会おう。
私の大事なたった一人の愛しい子。
2004/07/04 up
かつて運営していた『黒玄Webring』で、
配布していたお題の「黒玄好きへの10のお題」よりNo1。
流れのせいではあるのですが、会話部分がほぼゲームでの原文になったのが、非常に心残り。
- 2013/10/06 (日) 02:32
- 黒玄