作品
早くあいたい
何度目だろうね、君がこうして殺されるのを見るのは。
胴体と切り離されて、血で汚れた頭を拾い上げた。
ああ、こんなに軽くなってしまって。
せめて、恨みがましい表情だったなら、私は自分を責められるのに。
何時見ても、君の死に顔は穏やかな表情をしているものだから、自分のエゴを通してしまう。
狡い親だね、私は。
せめて、顔だけでも綺麗にしようと血で汚れたところを舌で拭う。
幾度こうやって、君の顔に口付け、舌を這わせただろう。
かつて、甘い味をしていた肌は、今は血の味しかしない。
瞼、鼻筋、頬、耳、顎と隈なく舌を滑らせていく。
生きていた時には零していた甘い声も今は無い。
虚しい、ね。
そうして、全て拭いさってから唇を重ねた。
まだ、硬直は始まっておらず、柔らかくはあるけれど、既に温もりは残っていない冷たい唇。
もう、私に言葉を紡ぐこともしてくれない。
「また、君に会えるのはいつになるかな……」
会えると思えばこそ、過ごせる長い時。
待ち遠しくてたまらない。
どうせ、人が人を殺めてしまうことを止められないのなら、いつまでも戦が続いてしまえばいい。
他者の命など知ったことではない。
沢山死ねば、その分だけこの子が早く生まれてくれる。
でも、君はそれを知ったら嘆くのだろう。
気遣うのだろう。
閨で交わされる行為によって、私を傷つけたのを嘆いたり、気遣ったりするのと同じように。
そんな君の優しさにさえ嫉妬する自分は本当に酷いと思うけど。
君以外の全てがどうでもいいのだから仕方ない。
「待っているよ。また君に会える、その時を」
例え、世界の全ての人間が君が生まれることを望んでいなくても。
私は望む。
君と再び共に過ごせるその時間を。
額に口付けて、静かに力を送る。
輪郭が淡くぼやけて柔らかい光を放った後、残ったのはひとひらの黒い羽根。
その羽根を口元に運んで、そっとキスをする。
「だから、今はお休み。玄冬。…………良い夢を」
せめて、その時まで君の魂が安らぎに包まれていることを。
Caro laccio, dolce nodo,
che legasti il mio pensier,
so ch'io peno e pur ne godo;
son contento e prigionier.
私の想いを縛り付けた愛しい絆、優しい結び目。
私は、自分が苦しみながらも、どこかでそれを楽しんで、捕われの身に満足していることを知っているのだよ。
2004/06/25 up
「惑楽」(お題配布終了)で配布されていた
「萌えフレーズ100題」よりNo76。
元は裏サイト側で黒玄お題under ver.の「春告げの鳥」としてあげていたもの。
ほんのりグロくなりました。
ラストの文章はイタリア歌曲「Caro laccio」(いとしい絆)の歌詞を、黒鷹仕様にしたもの。
ラストの羽根になるのは、某さまがかなり前に日記で玄冬の亡骸が光の粒になって~と語ってらした妄想のアレンジ。
一片の羽根を残す形にしたけど、うっかり黒鷹の肩のもさもさの正体は……?とセルフツッコミしたら、話がぶち壊しになりそうなネタが出ました。そっちは永久にお蔵入り予定ですがw
結局、うちのデフォルトだと玄冬は死んだら桜の樹の下に埋められることを望む感じになりましたし。
- 2013/10/07 (月) 02:41
- 黒玄