作品
舌
「つ…………」
「どうしたんだね? 玄冬」
出来たばかりのスープを一口、飲んだところで玄冬が口元を押さえ、少し眉を顰める。
「……悪い。まだ熱かった。
スープはしばらく飲まずに冷ましておいてくれ」
「火傷したのかい?」
状態を確認しようと席を立って、玄冬の元に歩み寄った。
「平気だ。たいしたことはない」
「いいから、見せてごらん。
……ああ、舌先が赤くなってしまっているね」
「……んっ……!?」
玄冬の顎を捉えると、赤くなった舌先を自分の舌で包むようにして、口付ける。
一瞬、玄冬の身体がびくりと跳ねた。
……痛かったかな。
ゆっくりと舌先を舐めて、そっと力を送り込む。
わざわざ私が力を使わずとも、すぐに治るのはわかっているけど。
傷を癒すように舐めながらも、頃合いを見て舌の力を強くする。
触れるのは舌に留めずに、歯列や歯茎、口内の粘膜まで隈なく。
途中で玄冬が抵抗しようと手を振り上げたけど、横にちらりと投げかけられた視線から察するに、食卓に乗っている食べ物のことを考えてしまったらしい。
結局、肩を軽く押して来ただけだったから、遠慮もなしに続ける。
そのくらいじゃ離しやしないよ。
最後に派手に音を立てて口付けをすると、玄冬が真っ赤な顔で睨みつけていた。
「何をする……っ。いきなりお前はっ!」
酷く擦れた声に内心ほくそ笑みながらも、言葉を返す。
「何って? 治療に決まってるだろう?」
「こんなのが治療なわけあるか」
「でも、ほら。もう痛まない。違うかい?」
「黒鷹。お前…………」
自分の内面で燻り始めた熱は悟られないように笑う。
火がついたのは君もだろう?
「まだ痛むのかい? なら、さらに『治療』しようか?
スープが熱くて飲めないのなら、冷めるまでの時間つぶしに」
耳元でそっと囁き、唇に優しく指で触れると玄冬の口から小さい声が零れた。
「……好きにすればいい」
苦笑交じりの声が可愛かった。
***
……結果、適度に冷めるどころか、すっかり冷え切ってしまったスープは
楽しんだ時間の代償としては安いものだろう。
2004/06/03 up ※三人称で書いたのを一人称にしたのはいつか忘れた。
「惑楽」(お題配布終了)で配布されていた
「萌えフレーズ100題」よりNo74。
最初三人称で書いていたのですが、後に一人称(黒鷹視点)でリメイク。
- 2013/10/07 (月) 02:53
- 黒玄