作品
キス
あれは確か人里に初めて行って間もなくの頃。
建物の物陰で口付けを交わしている男女を偶然見て、帰り道に黒鷹に聞いた気がする。
キスは口と口でもするものなのか、と。
黒鷹はよく額や頬にしてくれていたし、そうやって育てられたから、俺も同じように黒鷹にしていたけど、唇同士で交わしたことなんてなかったから、単純に疑問だった。
あいつはちょっとだけ驚いた表情になったあとに言ったんだった。
――唇同士のキスは特別だよ。
キスは大好きな相手とするものだ、というのは聞いていた。
が、その中でも唇同士というのは簡単にしてはいけないものなのだと。
――唇同士でキスをすることはね、ただ一人。
――何があっても代えがたい大切な相手のみに許された行為なんだよ。
黒鷹だって、特別で大切な相手だと言ったら、まだ君には難しかったかな。とか何とか言われた気がする。
大人になったらきっとわかるよ、と。
……結局、唇を重ねる相手は黒鷹になったのだけど、初めて口付けを交わしたときにも違和感はなく、ごく自然な感覚だった。
今は唇同士だけでなく、身体の全ての場所がもう黒鷹の唇の感触を知っている。
ああ、もうわかる。
あの時の黒鷹の言葉が。
確かに特別なんだということを。
他の誰とも出来ないことだというのを、今の俺は感情だけでなく、身体でも理解しているから。
2005or2006? up
China Love(閉鎖?)で配布されていた、
「微エロ妄想さんに25のお題」、No4より。
これだけ一日一黒玄ではなく、サイトで通常UPしたもの。
- 2013/10/07 (月) 22:21
- 黒玄