作品
家族の増えた日
「……何か……どこかでみたような。既視感を覚えるというか……」
ある寒い冬の朝。
目の前にある物体を眺めて、俺は溜め息をついた。
目の前の物体……籠の中に収まっているのは、二人の人間の赤子。
赤子がこんなところにいるという問題も勿論あるんだが、それ以上に目を引いたのは、二人の容姿。
どこかで馴染みのある、いや寧ろ日常的に接しているような感覚がある。
それも、そのはず。
一人は茶色がかった赤紫の少しウェーブのかかった髪。
もう一人は紺青のストレートの髪。
偶然にしては、あまりにも出来すぎている。
「どうしたものか……と言っても、他に選択肢はないんだろうな」
この寒い中に赤子を放置しておくことなんて、出来るわけも無い。
意を決して、その籠を持ち上げた。
二人の赤子はぐっすりと眠ったままだった。
***
「うーん、これでねぇ……君が女の子だったのなら、心当たりなんて、掃いて捨てるほどあ……った! 痛いじゃないか!
親に手を上げるような子に育てた覚えはないぞ、私は!」
バカな言葉に、反射的に黒鷹の頭を小突いたら、そんな抗議の声が上がった。
「お前が余計なことをいうからだ!」
「だって、本当のことじゃ……いや、わかった。
わかったから、その上げた手を下ろしたまえ」
「ったく……。それにしても、こうしてみると……」
「うーん……どこからどう見ても、だな。
私達が一緒にいたら実の親子にしか見えないだろうねぇ。
玄冬……一つ聞いてもいいかい?」
「うん?」
「私が知らない間に実は産んでいたとか、そういうオチはないよね?」
「産めるか!!」
真顔で何をバカな事を言い出すのか、こいつは!
「あー……」
「よしよし、良い子だね。今のは君に怒ったんじゃないんだよ。
君の小さい時にそっくりというよりは、もうそのものだねぇ」
黒鷹が抱いている赤子に向かって笑いかけると、紺青の髪と瞳をした子どもは、無邪気に黒鷹に笑い返した。
きっと二十年ほど前には、実際そんな光景があったんだろうと考えてしまうと、変に気恥ずかしいというか、なんともいたたまれない気分になる。
俺が抱いている赤子の方はといえば、もう眠りの淵にいてうつらうつらと、今にも目を閉ざしそうだ。
零れる瞳の色は綺麗な黄金。黒鷹と同じ色。
二人の赤子は、何から何まで黒鷹と俺に生き写しだ。
「まぁ、これも何かの縁だろうさ。
このまま育ててみるのもいいんじゃないかね?」
「お前、本気か……動物や家畜を飼うのとわけが違うんだぞ?」
「あのねぇ……誰が君をそこまで育てたんだと思っているんだい?」
「え……あ……」
そう返されて、二の句が告げられなくなった。
確かに俺の養い親はこいつだけど。
「私はいつだって本気だよ。ここまで似てるんだ。
もう他人とも思えないだろう?」
「……まぁな」
不思議なもので、自分たちに似ているせいもあるのか、すっかり手放し難くなっているのは事実だった。
「どうだい? このまま、この子達を育ててみる気はないかね?」
子どもを持つなんて、考えたことはなかったが……悪くはないかもしれない。
一応、子育て経験者はいるのだから、なんとかなるだろう。
微妙に不安は残るが。
「お前がそう言うのなら」
「よし、決まりだね。さて……となると。
さしあたって名前をつけてやらないといけないねぇ。
うーん、私たちの小さい版ということで『ちびくろ』『ちびたか』なんてどうだい?」
「もっとましなのを思いつけないのか、お前は!」
成長して、『ちび』じゃなくなったら、色々と不都合が生じそうだ。
「じゃあ、君ならなんとつけるんだね?」
「う……それは…………」
言われて考えては見るものの、どうにも思いつかない。何かに名前をつけたということもないからだろう。
まぁ、わかりやすいといえば、わかりやすくていいか。
「……もういい、それで」
「結局、そうなるんじゃないか。
ちびくろ、ちびたか、今日から私たちが君たちの親だよ。
私がパパで、こっちがママだ。よろしく頼むよ」
「……おい、ちょっと待て。誰がママだ」
「ん? 普段の役割を考えてもそうなるんじゃ……って痛い!
今のは本気で痛かったぞ!!」
「五月蝿い! ちびが起きる!」
『普段の役割』に篭められた意味を悟って、反射的に向こう脛を思いっきり蹴ってやる。
小声で怒鳴り返したからか、幸いにも、腕の中のちびたかは眠りに落ちたままで、目は覚まさなかった。
2004/12/26 up ※後、個人誌にも掲載。
Happy Life最初の話。
パラレルなので、どうちびたちが生まれたのか等は一切スルー(笑)
- 2008/01/01 (火) 00:00
- 年齢制限無