作品
01:prayer
止まない雪。
白く埋められていく世界。
白羽の預言師は言った。
この雪は嘆き。
人が人を殺しすぎたために主が嘆くから、雪は止むことがないのだと。
『時が来たのです』
預言師の言葉に人々は縋った。
ただ一つを消せば世界は続いていくという言葉に。
世の人々にとって、『一つ』は人ではなかったからだ。
ごく一部の人々を除いては……。
***
「ね……雪、今夜も降ってるんだね」
「うん、最近ずっとだね。絶対、今までの冬より寒いよ」
ベッドに入ったちびたちが外の様子について話している。
それにほんの少し胸が締め付けられた。
「さ、もう遅いんだから寝ろ、二人とも。話すなら明日にしろ」
「はーい」
やれやれ、返事だけは素直に返すんだからな。
二人それぞれに少し乱れた布団を直してやる。
「お休み。二人とも」
「お休み」
「お休みなさい」
挨拶を交わして、灯りを落として。
ちびたちの部屋を出ようとすると、ちびたかが待って、と呼び止めた。
「うん? どうした?」
「くろと……どこにも行かないよね?」
「何?」
「くろともくろたかもどこにも行ったりしないよね?
俺たちずっと一緒だよね?」
「……ちび」
不安そうな顔は問いかけたちびたかだけじゃない。
ちびくろも何も言わないけど表情に不安そうな色を浮かべている。
黒鷹も俺も何も言わない。
でも、もしかして。
二人とも何かを感じ取っているんだろうか。
だが、それは口にはせずに、ちびたちに笑いかけた。
「ああ。行かない。ちゃんとここにいるから」
「ホントだね? 絶対どこにも行かないね?」
「ああ」
心の中で、少なくとも今夜はと付け加える。数日後はわからない。
「行かないから、ちゃんと寝てろ。
明日起きられなかったら、朝食、お前の分は野菜を増やすからな」
「げ。起きるよ! ちゃんと起きるから増やさないで!」
「よし。じゃあお休み。……いい夢を」
「お休み」
「お休みなさい」
***
「……驚いたね。君も案外誤魔化すのが上手いじゃないか」
「養い親譲りだな」
「言ってくれるじゃないか」
「本当の事だろう」
ちびたちの部屋を出てすぐに、扉の外に佇んでいた黒鷹が小声で話しかけてきた。
さっきのやりとりを聞いていたんだろう。
そこまでいうと黙って二人で寝室までいく。
扉を閉めて、ベッドの上に二人で腰掛けて。
俺の首筋に唇を寄せた黒鷹の動作は止めずに問いかけだけを投げた。
「……もう、雪は止まないんだな」
「…………ああ」
ごく短い返事。黒鷹はそのまま俺をベッドの上に倒す。
見下ろす目は感情を消してて、何を思っているか読めなかった。
「俺は世界を終わらせない。ちびたちは死なせない。……お前もだ」
「私もだよ。ちびたちも君も死なせるつもりはない」
「出来る……のか…………」
泣きたくなるほど今の時間が愛しい。
笑いかけるちびたちも、こうして触れてくれる黒鷹も。
失くしたいなんて思うわけが無い。だけど。
俺が生き続けることは世界を滅ぼすことに繋がる。
黒鷹はともかく、ちび二人は普通の人間だ。
滅びを迎えてしまった世界であいつらは生きてはいけない。
「やってみせるさ」
「……っ!」
カリ、と耳朶を噛まれて声が零れる。
ちびたちはまだ寝ていないだろう。
わかってはいるけど止めるつもりもなかった。
触れていられる時間が少しでも欲しい。
「君もちびたちも。死なせてたまるものか」
今のこの時を。
幸せを失わずにいられるなら、どんなにいいだろう。
胸元に這わされた黒鷹の手に祈らずにはいられなかった。
- 2009/01/01 (木) 00:01
- Black Sacrifice
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