作品
02:original sin
我を忘れるように玄冬の身体を貪る。
募る焦燥感から逃げるように。
本能に従い、獣のように理性をどこかに置き去りにして。
それに対して、玄冬も何も言わない。
それどころか玄冬も自分から積極的に動いて、感覚の全てを交わりに集中させている。
幾度も繰り返し呼ばれる名に私もまた求める。
失くしてなんてたまるものか。
この子もちびたちも私のものだ。
誰であろうとも、奪わせはしない。
***
「……ねぇ、くろ……まだ、起きてる?」
くろとが部屋を出て、少しした頃。
上のベッドからたーの声が聞こえた。
「起きてるよ。どうしたの?」
「そっちに行ってもいい? ……何か眠れない」
「いいよ。おいで」
「うん」
上でがさがさと音がして、すぐたーが枕だけ持って梯子を伝って降りてきた。
奥に身体をずらして、上掛けを捲ると空いた所にたーが入り込んでくる。
「狭い?」
「大丈夫。久しぶりだね、一緒に寝るの」
「うん」
5つの時に、くろとが二段ベッドを作ってくれるまではずっと一緒に寝てたけど、
あれ以来、一緒に眠るのはごくたまにするくらいだった。
「くろ……」
「ん?」
「……俺、怖いよ」
「……たー」
「雪が止まなくなってから、くろともくろたかも変だよ。
時々怖い顔して空を見てる」
「そうだね……怖い顔とか悲しい顔することが多くなったよね」
俺もずっと思っていた。
二人とも前に比べてあまり笑わない。
「……二人がいなくなっちゃったりしたらどうしよう」
「たー、やめて。言っちゃだめだよ、そんなこと」
泣きそうな顔してるたーのほっぺを軽くぺちんと叩く。
「くろたかが言ってたでしょ?
『言霊』っていうのがあるんだって。言葉には力があるんだって。
言ったことがホントになっちゃったらどうするの?」
「くろ……」
「……だから、言っちゃだめ。いなくなんてならないよ。
くろたかもくろとも、俺たちを置いてどっかに行ったりなんてしない」
「うん、そうだよ……ね」
たーの手が俺の手を握ってきたから、俺もぎゅっと握り返した。
俺だって、ホントは怖い。何かが変わってしまいそうで。
でも、口になんてしたくない。
「くろ、覚えてる?」
「何?」
「村に遊びに行った時に、聞いたお話。
……『救世主』と『玄冬』のお話」
「…………うん、覚えてる」
――なんだよ、知らないの!? 世界は『救世主さま』のおかげで続いてるんだよ!
――救世主さま?
――昔々、『玄冬』っていう怖ーい化け物がいて、世界を滅ぼそうとしたところを
『救世主さま』が倒して、世界を救ったんだって!
――……『玄冬』?
――そうだよ。『玄冬』はね、生きていちゃいけないんだって。『玄冬』が生きてるだけで世界が滅びちゃうんだぜ!
――どうして、生きてるだけで?
――んー、俺もよくわかんないや。あ、でも今どこかの国に『救世主さま』がいるらしいよ。
だから、また『玄冬』が世界を滅ぼそうとしても、倒してくれるから大丈夫だよ!
何でかはわからないけど、凄く嫌な感じがしたお話。
くろたかは俺たちに本をいっぱい読んでくれるから、俺たちは色んな話を知っているけど、その話をしてくれたことはなかった。
その話を知った後、くろたかに聞いて見たけど、くろたかは苦笑いして、
そのお話はくろとに言っちゃだめだよって言っただけだった。
「違うよね。あの『玄冬』はくろとじゃないよね」
「違うよ。だってくろとは怖くなんかないもん、化け物じゃないもん」
「そうだよね……」
「うん……」
でも。
俺もたーも他の人には言っちゃいけないって言われてることがある。
例えば、くろたかが黒い鳥の姿になれることや、くろとが怪我してもすぐに治っちゃうこと。
他の人には出来ない、俺たちにも出来ないことなんだから、絶対に他の人に言ってはだめだよ、って。
――『ふつう』じゃないよ。
昔、村の子に言われた言葉を思い出した。
――『ふつう』は『おとうさん』と『おかあさん』がいるんだよ!
お前たちのとこ、変! 絶対、お前たち『余所の子』だよ!
哀しかったし、悔しかった。
たーは本気で怒ったし、たーが怒らなきゃ俺が怒っていた。
くろたかもくろとも大好きだし、変なんかじゃない。
『うちの子』だって言ってくれる。
赤ちゃんのときから育ててるんだから、『余所の子』なんかじゃないよって。
でも……本当に何か違うのかな。
くろたかやくろとに出来ることでも、俺たちには出来ない。
怖いし、ホントになっちゃったら困るから言わないけど。
俺も二人がどこかに行ってしまうような気がする。
『ふつう』じゃなくたっていい。変だっていい。
ただ、このままずっと皆で一緒にいたい。いなくならないで。
たーに抱きついたら、たーもぎゅって抱いてくれた。
- 2009/01/01 (木) 00:02
- Black Sacrifice
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