作品
03:anxiety
とうの昔に覚悟しているつもりだった。
時が訪れたのなら、世界を滅ぼさせないために動こうと。
なのに、ちびたちを育てて、花白に会って。
その時がくるのがどんどん恐ろしくなった。
執着なんてしてないと思っていたのに。
今は黒鷹とちびたちと離れるのが怖い。
この時間を失くしたくないと思っている。
無邪気に懐いてくるちびたちと何時だって受け止めてくれる黒鷹が愛しい。
……死にたく、ない。ずっと一緒にいたい。
***
「ちびたちは寝たかい?」
「ああ、多分。お茶を淹れるか。それとも酒の方がいいか?」
「お茶がいい。温かいものを飲みたいからね」
「わかった」
お茶を淹れに台所に向かった玄冬の後姿をみて、軽く吐息をつく。
最近、ちびたちの寝つきが悪い。
しばらく玄冬か私がついていてやらないと眠れないし、よく一緒に二段ベッドの上か下に固まって眠っている。
いや、夜だけじゃない。
日中も玄冬や私からあまり離れようとしない。
目の届かない場所にいくと不安がる。
さすがに血が繋がっていないとはいえど、私たちの子、というところだろうか。
何かを感じ取っているのかも知れない。
「ほら」
「ああ、有り難う」
温かいお茶が少しだけ気持ちを落ち着かせる。
見ると玄冬も少し顔が和らいでいた。
「……どうしたんだろうな、ちびたちは」
「言わなくても何かわかってしまっているのかも知れないね」
玄冬も私もなるべく何でもない風にしているつもりだけど、隠しきれてないのだろう。
「……いっそ、全て言ってしまうのも手かな」
「あいつらにか!? 俺は巻き込みたくない」
「私もだよ。でも、もうそれでは済まない段階なんじゃないかい?」
その言葉に玄冬の顔が哀しそうに歪む。
「ちびたちは普通の人間なんだぞ」
「知っているよ。でも私たちの子だ」
「……っ」
「君があの子達の立場だったなら、どう思う?
やっぱり黙って何かされたくないと思うだろう?」
「それでも! それでも……」
「あの子達を守りたい気持ちはわかる。それは私だって一緒だ。
……だけど、言わないことが守ることになるとも、私は思わない」
自分のマグカップを置いて、玄冬のマグカップも手から離させ、玄冬を抱きしめた。
「……連れて来なければよかったのかも知れない」
「玄冬」
「俺が……あいつらをあの時連れて来なければ……」
「止めなさい、玄冬。なんてことを言うんだい」
あの子たちが聞いたら、どれほど嘆くだろう。
君だって、共に過ごした日々の楽しさも貴さもよくわかっているだろうに。
「だけど、連れて来なければ。
お前と俺の二人だけだったなら、迷うこともなかったのに」
「玄冬」
「なぁ、黒鷹……今からでもあいつらの記憶を変えられないか?」
「……なんだって?」
「どこかの普通の村の子どもに出来ないか?
そうしたら……そうしたら、俺が死んでもあいつらは悲しむことも……!」
「玄冬!」
「……何、それ」
不意に聞こえた声にぎょっとして、扉の方を向いた。
ちびくろとちびたか、二人揃って立ち竦んでいた。
眠っていなかったのか。
どこから話を聞かれたんだろう。
「くろとが死んだらって何? 記憶を変えるって何!!」
「ちび……」
「二人とも酷い! ……俺たちは邪魔なの? いらない子なの? だから!?」
「違……! それは!!」
「……馬鹿!! 二人の馬鹿ぁっ!!」
ちび二人が目に一杯の涙を浮かべて、それだけ叫ぶとくるりと踵を返して走り去っていく。
玄冬も私も呆然として、後を追うことが出来なかった。
「……違う、違うんだ……」
「……玄冬」
拳を硬く握り締めて、微かに震える玄冬の手にそっと自分の手を重ねた。
「邪魔でも、いらない子なんかでもない。
……ただ死なせたくない、だけなんだ……」
「君の言いたいことはわかるけどね。……口にすべきではなかったよ」
願っているのはあの子達の幸せ。
君の真意はわかっている。
でもね、あの言葉は。
ちびたちにとっては死刑宣告にも等しいよ。
……最悪な形で傷つけてしまった。
- 2009/01/01 (木) 00:03
- Black Sacrifice
タグ:[Black Sacrifice]