作品
舞い散る雪に想いを馳せて
「あ! 雪」
ちびたかの声に窓に視線を向けると、確かに雪が降り始めていた。
日が沈みかけている空はほんのりと薄い紫に近いような色。
雪が降るときの空の色合いを示している。
「わぁ……初雪だね」
ちびたち二人は顔を見合わせると、私に尋ねた。
「ね、少しお外で遊んで来てもいい?」
「ああ、でもあまり遅くならないようにしたまえよ。
じき、夕食だからね。
風邪をひかないように、ちゃんと上着は着ていきなさい」
「はーい!」
「じゃあ、行ってきまーす!」
ちびたちがばたばたと元気良く足音を立てて、部屋を出て行った。
その様子にも、玄冬は振り向かない。
窓辺でじっと佇む玄冬の目は、何処か遠くを見ている。
「玄冬」
「……まだ、だよな?」
「ああ、まだだよ。これは唯の雪だ」
滅びには関係の無い、冬の訪れを告げるだけの雪。
私の言葉に玄冬がこちらを向く。
その目元が少しだけ和らいだ。
「玄冬」
「なぁ、黒鷹。もし……もし時が来たなら。その時はちびたちを頼……」
言いかけた言葉は最後まで言わせず、手を翳して遮った。
「それ以上は聞きたくない」
「黒鷹」
「君のその頼まれごとはきけない」
「……俺はお前もちびたちも死なせたくない」
「私だって、君もちびたちも死なせたくないさ」
玄冬を抱きしめて頭を撫でると、玄冬の腕が縋るように私の身体に回された。
「……覚悟、していたはずなんだ」
「うん?」
しばらく無言で、為すがままにされていた玄冬が不意に口を開いた。
「いずれ、時は来る。
そうしたら……世界を滅ぼさないようにしなければ、と」
「玄冬」
「俺が生きている限り、世界は滅びに向かう。
お前はともかく、ちびたちは普通の人間だ。
……俺が生き続けるということは、あいつらも殺すことになる」
「止しなさい、そんな言い方をするのは」
抱きしめる腕に力を篭めると、玄冬の方もより強くしがみ付いて来る。
「だから、覚悟していたのに。……なのに、今は……時が来なければいいと思っている」
「……玄冬」
「………………怖……い……」
――ずっとこのままでいられたら。
「……大丈夫だよ。何があっても私が君を最後まで護る。
勿論ちびたちもね」
「黒鷹」
「護るよ」
「……出来るのか?」
「やってみせるさ」
顔を上げた玄冬に微笑いかけて、頬を両手で包む。
「だから、少なくとも今は忘れているといい。
せっかくの楽しい時間を、わざわざ沈ませることなんてないよ。
大丈夫、私を信じなさい」
「……不思議なものだな」
「うん?」
「お前がそういうと大丈夫な気がしてくる。
……いつもなら信用なんてできないのに」
「それはひどいね」
「そういうことは自分の行動を顧みてから言え」
やっと、いつもの玄冬の笑顔になった。
とりあえずは大丈夫だろう。
コンコン。
そのとき。窓を叩く音が聞こえた。
顔を見合わせて窓をみると、ごく下の方で小さい手が窓を叩いていた。
窓を開けて見下ろすとちびたちがいた。
「うん? どうしたんだい?」
「見て見て!! 雪だるまつくったの! ほら!」
「ほう」
「ああ……なるほど」
ちびたちの指差した方向を見ると、4つの雪だるま。
大きいのが2つと小さいのが2つ。どうやら私たち皆の分らしい。
微笑ましさについ笑みが零れる。
玄冬も優しい顔で雪だるまを見つめていた。
「せっかくだ。ちびたちの力作を見に外に行こうじゃないか」
「ああ、そうだな」
「2人とも来るの?」
「じゃあ、雪合戦しよう!! 早く来て!」
「ふふ、少し待っていたまえ。今行こう」
一旦窓を閉めて、コートを着、玄冬に手を差し出した。
「行こうか」
「ああ」
ほら、雪も悪くないだろう?
だから、今は楽しもうじゃないか。
穏やかで温かい、優しい時間を。
2005/03/29 up
黒鷹視点。
基本的にはHappy Lifeは世界の滅び云々は絡んでこないので、
いつまでもちびたちと一緒にいるのですが、
(例外はすっかり停滞中の長編のみ)
降り始めた雪を見て、今の時間が失われたらとつい危惧する玄冬をメインに置いた話。
ほのぼのまったりも好きなのですが、どこか切なさが感じられるものが
やはり自分は好きなんだなとこの話を書いた時にしみじみ思った記憶がw
- 2008/01/01 (火) 00:15
- 年齢制限無