作品
初雪
「あ……雪降ってるの?」
「ああ、明け方から降り出したみたいだぞ」
ちびたちの部屋のカーテンを開けると、ちびくろが窓の外に視線をやった。
「初雪だね。いいなぁ、遊びたかったな」
「お前はまず熱を下げないとな。
この様子ならまだ2、3日は雪も残っているだろうから、元気になってから遊べ。
……まだ熱いな。おかゆ作るけど食えそうか?」
ちびくろは風邪をひいて昨日から寝込んでいる。
額に手を宛てるとまだ熱が高い。
昨日は食べても全部吐いてしまっていたせいか、少しやつれて見えるのが辛い。
「……ん。ちょっとなら。梅干入ったのがいいな」
「わかった。作ってくるからそれまで寝てろ」
「うん。たー、どうしてる?」
「あいつなら元気だぞ。一人でつまんないーってぼやいてる」
「……俺もつまんない……」
「なら、早く元気にならないとな」
ぽんとちびの頭を軽く叩くと、ちびがようやく少し笑った。
***
「ね、くろたか。ちょっとだけ、10分だけお外行って来ていい?」
「うん? まぁ構わないが……君まで風邪をひいては大変だから、ちゃんと暖かくして行かなければダメだよ」
「うん!」
朝食を食べた後、ちびたかがそんなことを言って表に行く。
ちびくろが寝込んでいるから、てっきり一人じゃつまらない、と雪が降ったからとはいえ、外には行かないものと思っていたのだけどね。
さて、あの子は何を考えたのやら。
***
トントン。
小さい何かを叩く音が聞こえる。
窓の方に顔を向けたらたーが窓を叩いてた。
「くろ! ちょっとだけ開けて!」
「たー? どうしたの?」
ベッドから起きて、少しだけ窓を開けるとたーがぽんと俺の手の上に何かを乗せた。
小さな雪うさぎ?
「お見舞い! 早く風邪なおして。で、今度は一緒に雪だるま作ろ!」
「たー……ありがと」
「うん!」
たーが笑って走っていくのを見ながら、窓を閉めた。
可愛い小っちゃい雪うさぎは冷たくて気持ちいい。
でも、きっと手でずっと持ってたら溶けてなくなっちゃう。
「……あ、そうだ」
ベッドに戻って、横になり、額に置いてたタオルをまた乗せて、その上に雪うさぎをおく。
うん、ひやひやして温くならなくていい。
これなら簡単には溶けない……多分。
ひやりとした感触が続くのが気持ちよくて、何時の間にか眠くなり始めてた。
***
「ふふ。ちびたかは少しの時間で何をしにいったんだろうと思っていたけどね」
「……まったく。すっかり溶けて枕やシーツがぐしょ濡れだ」
玄冬が苦笑しながら、枕カバーやシーツを換えてる間も私の腕の中でちびくろは眠ったままだ。
――あれ、雪うさぎがない! さっき作ってここに置いたのに。
――うん? 家の中に入れたのかい?
それは無理だよ。家の中は暖かいからね、溶けてしまうさ。
ほら、小さい水溜りと葉っぱと赤い実はここにあるだろう。
これが雪うさぎだったものの名残だよ。
――そっか。すぐ溶けちゃったんだ。くろにあげたのも、もう溶けちゃったのかな。
――え?
「でも、雪うさぎが熱を吸い取ってくれたのかね。下がってるみたいだよ」
「風邪がちびたかにうつってないといいが。……しょうがないな」
風邪がうつったら大変だと、いつもどちらかが風邪をひいた時には、少しの間は相手に近寄るんじゃないよと言いはするのだけれども。
生まれた時から一緒にいる二人にはその少しさえ、時には耐え難いらしい。
「可愛いね」
「……ああ」
一通りカバーやシーツを交代して、ちびくろを再びベッドに寝かせると、
玄冬も顔を綻ばせる。
子育てなんて君で慣れたつもりでいたけどね、二人で、二人の子どもを育てるというのはまた違うものだ。
色んな新しいことを気付かせてくれる。
君は初雪に気付いた朝、ほんのり顔を曇らせていたけども、ねぇ悪くはないだろう?
2005/11/29 up
黒玄メールマガジン(携帯版)第18回配信分から。
- 2008/01/01 (火) 00:19
- 年齢制限無