作品
初夢を見るのは何処か
「……まったく、君も新年早々聞き分けのない子だね」
「くろたかに言われたくない。
だって、今日は俺、くろとと一緒に寝たいんだもん」
「それは私も同じことだ!」
またというか、いい加減にしてくれというか。
年明けの日の夜、皆で夕食を取っていた時に初夢の話題が出て、そこから、ちびたかが俺と一緒に寝る、と言い出したら、黒鷹が例によって譲ろうとしない。
時々本気で六つの子どもと争うなと言いたくなる。
何で新年早々、こんな疲れた心境にならなければならないのか。
軽く溜息をついていると、やはり黒鷹とちびたかの言い争いを黙ってみていたちびくろが、俺の服の裾をくい、と引いた。
「くろとー……」
「うん? どうした、ちびくろ」
「ね、皆で寝るっていうのはダメなのかな?
ベッド移動させるのは大変だけど、ベッドパッドを皆のを居間とかで寄せてくっつけちゃえば、皆で一緒に寝られるんじゃない?」
「あ……」
それは思いついていなかった。
どうしてもベッドのスペースを考えて、二人以上が一緒に眠るのは厳しいと最初から思い込んでいたが、そういう手段もあった。
ちびくろの言葉を聞いていた黒鷹とちびたかも顔を見合わせる。
「おお、ちびくろは賢いな!」
「そうか、皆で一緒に寝ればいいよね! くろ、凄い!」
「……どうやら、決まり、だな」
名案を出して、馬鹿馬鹿しい諍いにけりをつけてくれたちびくろの頭を撫でると、ちびが嬉しそうに笑った。
***
「何か不思議ー。いつもと違う場所で寝るってわくわくする」
「俺も俺も! 何か違うおうちに泊まってるみたい!」
居間に皆でベッドパッドを持ち寄り、寄せてくっつけ、
四人並んでそこに横になっていると、ちび二人が黒鷹と俺の間ではしゃぐ。
俺も今はちびたちの部屋になってしまっている、元の自分の部屋と
今は二人の部屋になっている黒鷹の部屋以外で眠ったことはないから、
同じ家の中なのに、不思議な気分がして、何となく心躍るというのは解らなくもない。
「ねぇねぇ、皆で一緒に眠ったら、四人で同じ初夢見られたりとかするかな?」
「どうだろうねぇ、一緒に眠ってても同じ夢をみるとは限らないからな」
「え? そうなの? 俺たちよく見てたよね、たー」
「うん」
「え?」
さりげなく出たちびたちの言葉に、黒鷹と俺はつい顔を見合わせる。
「去年まで俺とくろは一緒のベッドで寝てたでしょ?
一緒に寝てて、朝起きて夢の話をしたら、よく同じものを見てたってあったよ。ねー」
「うん。夢の中での言葉まで一緒なんだよね」
「くろたかとくろとは?
いつも一緒に寝てるでしょ? そういうのない?」
「……いや、記憶にない、な」
「うーん、夢の話をしないから……かねぇ」
余程妙な夢を見た、とかそんなことがあれば、夢の話は話題に出るが、
それでも、そこで同じ夢を見た、という話にはなったことがない気がする。
何となく、口が重くなった俺たちを見て、ちび二人が勝ち誇ったように笑う。
「じゃ、俺たちの方が仲が良いんだ! ねー、くろ」
「だねー」
二人揃って返す言葉に困ってしまった。
***
「何と言うか、こう……無性に悔しいね」
「……ああ」
ちび二人が睡魔に負けて、夢の世界に入ってしまった後、黒鷹と俺はちびたちを起こさないように小声でそんな話をしていた。
「……同じ夢か。うーん、やられたなぁ。
そんなところまで一緒なのか、この子達は」
「生まれた時から一緒だったからな……不思議なものだ」
そういえば、昔。
ちびたちが寝入った後に様子を見に行ったときに、二人揃って笑みを浮かべていたりしたことがあって、黒鷹と一緒に、そんな様子が微笑ましいと話したりしたことはあったが、あれも同じ夢を見ていたからなんだろうか。
「……玄冬」
「うん?」
「朝、夢の話をする習慣をつけてみようか。
同じ夢を見ていることがあるかも知れない」
「……お前、ちびたちに張り合うつもりか?」
「だって、このままじゃ悔しいじゃないか。
私たちだってちびたちには負けず劣らず、仲がいいのに」
「それは……」
話をしながら伸ばされてきた指に、そっと自分の指も絡める。
ちびたちにはぶつからないようにしながら。
確かに悔しくないと言えば嘘になる。
「ちびたちに出来て、私たちに出来ない、ということはないと思うんだよ。
……ねぇ、試さないかい? 今年一年同じ夢を見られるようにするというのを」
「新年の抱負がまさかそれか」
「悪くないじゃないか。
君と同じ夢を見られるものなら見たいよ、私は。
夢の中でも同じものを見ているというのは悪くない。
君の夢を見るというのとは、また違った楽しみになりそうだ」
穏やかに笑いながら黒鷹に言われてしまうのは、どうも弱い。
「まぁ、お前がそうしたいなら。……あ」
「おや」
ふと。俺たちの間で寝ているちびたちが同時に笑みを浮かべた。
言っている矢先に同じ夢でも見ているのだろうか。
「私たちも眠ろうか。ちびたちの夢に混ぜてもらえるかな」
「ああ。混じれなかったら、俺たちは俺たちで同じ夢を見られるといいな」
少しだけ絡めた指に力を籠めると、黒鷹も同じようにしてくれた。
「だね。おやすみ、玄冬」
「ああ。おやすみ。良い夢を」
そんな、新年最初の夜。
穏やかな気分で目を閉じ、襲ってきた眠気に身を委ねた。
見る初夢が同じものであればいいと、願いながら。
- 2008/01/01 (火) 00:24
- 年齢制限無