作品
誕生日の朝に
「…………ん……? 黒鷹……おい、起きろ」
「……うー……ん……何だい……まだ起きるには早いじゃないか」
「台所の方から物音がする」
「なん……だって?」
ほとんど寝ていた状態の黒鷹が俺のその言葉でようやく目を開ける。
「こんな朝早くに、かい?」
「ああ、おかしいだろう?」
「……確かにね」
まだ、ようやく空が明るくなりはじめたばかりの時間だ。
泥棒……とは正直考えにくい。
盗るようなものなんて、この家にはないし、大体、ここは人里から結構離れた場所にある。
わざわざ来るような家ではない。
黒鷹が身体を起こして耳をすまし、何かを考え込む。
ややあって、寝台から降りた。
「様子をみてくるよ。
家畜が紛れ込んだ可能性もあるだろうし、万が一、ちびたちに何かあってからでは遅いしね」
「待て、それなら俺も行く」
俺も黒鷹の後について、足音を潜めて台所の方に向かう。
……が、ふいに聞こえた馴染んだ声に、二人で顔を見合わせてそっと台所を覗き込んだ。
「ねぇ、くろ。これ、どのくらい切ればいいかな?」
「一個丸ごと切っちゃっていいと思うよ。
あ! たー! お鍋、ふいてる、ふいてる!!」
「わわっ!」
いつもならまだ寝ているはずのちびたちが二人揃って、料理をしていた。
「くろとやくろたか、まだ起きてこないよね?」
「大丈夫じゃないかな? でも早くしないと起きちゃうね」
「喜んでくれるかな? びっくりするかな?」
「だと、いいね。……二人とも誕生日なの忘れてたりして」
「だったら、もっとびっくりかな。どんな顔してくれるかなぁ」
ちびたちが楽しそうに笑う。
「……可愛いことをしてくれるね、あの子たちは」
「……ああ」
声を潜めて微笑んだ黒鷹に俺も微笑う。
俺と黒鷹の誕生日を一緒に祝うことにし始めてからは、黒鷹に真っ先に「おめでとう」と言いたいから、誕生日を忘れることはなくなっていたけど、ちびたちがこんな形で祝ってくれる準備をしてくれていたのは予想外だった。
「もう一眠りしようか。あの子たちが起こしに来てくれるまで」
「そうだな」
誕生日は祝うことも祝われることも嬉しい。
それが大事な相手ならなおさら、だ。
2005/04/26 up
黒玄メールマガジン(PC版)第8回配信分から。
別ジャンルで似たネタやったのは、途中で気付いたけど続行w
- 2008/01/01 (火) 00:25
- 年齢制限無