作品
Party Night
「くろとー。ここぶかぶかー」
「うん? ……ああ、本当だ。
ちょっとそのままでいろ。直ぐ縫ってやるから」
ちびたかが着ている服の右腕の袖口がちょっと弛みすぎていて、確かにこのままで動きにくそうだと、糸と針を使って適度な状態になるよう、手早く縫い合わせてやる。
縫い合わせて糸を切ったところで、ドアの開く音がした。
「そっちは準備できたかい?」
「ああ。服は大丈夫だったか?」
「うん、大丈夫! ぴったりだよ!」
ちびくろがそう言ってくるりとその場で一周する。
ちびくろはかぼちゃをモチーフにした衣装、ちびたかは少しシックに魔法使いをモチーフにした衣装。
今日はハロウィンだ。
二人はこれから村に降りて楽しんでくる。一夜の子どもの祭りを。
「楽しみだなぁ。お菓子どのくらい貰えるかな?」
「皆、用意しててくれるかな?」
「きっとね。さ、楽しんでおいで二人とも。気をつけていっておいで」
「はーい!」
「行ってきまーす!」
「頃合いを見計らって迎えにいくからな。気をつけろよ」
満面の笑みを浮かべたちびたちが嬉しそうに村に向かった。
「ふふ、懐かしいねぇ。
昔、君と仮装してハロウィンの日に村に下りたのが昨日のことのようだよ」
「……俺もしっかり覚えているぞ。
お前が会う人会う人に可愛いだろう、うちの子は!と自慢して歩き回るから、凄く恥ずかしかった」
「酷いなぁ、実際可愛かったじゃないか。
お菓子を貰いに、照れてはにかみながら『Trick or Treat!』と言って回る様子も可愛かったと、実際あの頃酒場で評判だったよ?」
「待て、それは初耳だ」
「おや、そうだったかい? まぁいいじゃないか、昔のことだ。
お菓子ねぇ……用意したところで、きっとここまでは村の子どもたちは来ないんだろうけど」
「少し遠いからな。……『Trick or Treat!』……か」
「……『Happy Halloween!』」
記憶に残る懐かしい言葉をつい口にすると、応じた黒鷹が素早く俺を抱き寄せて唇を重ねてくる。
される気はしていた。
ちびたちもいないから、きっと躊躇いもしないだろうと。
「そう応じたなら渡してくれるのはお菓子じゃないのか?」
「甘いものには違いないだろう? 足りないなら何度でも」
「ん…………っ」
軽く触れ合わせるだけだった唇に今度は舌が割って入る。
飴でも舐めていたのか、比喩でも何でもなく甘い。
口の中に広がる甘さに息が上がる。
「…………は……っ」
「あの子たちを迎えにいくまではまだ時間があるだろう?
私たちは私たちで楽しもうじゃないか。
こんな時間から触れ合えるなんてそうそうないだろう?」
「……終わったあと、疲れて寝るなよ」
「君こそ」
ソファに倒れこみ、首筋に黒鷹の口付けを受けながら、俺も黒鷹の身体に手を這わせ始めた。
***
「ただいまー!」
「お帰り。お菓子は沢山貰えたかい?」
「うん! ほら、見てこんなに!」
「そうか、良かったな」
結局、迎えにいくのにぎりぎりの時間になって、湯も浴びずにそのまま出てきて。
丁度、村の入り口付近にいたちびたちと合流し、くろたかはちびたかを、
俺はちびくろを抱き上げる。
二人とも随分楽しい思いをしたんだろう。
笑顔がはちきれんばかりだ。
「あれ? くろと、何か甘い匂いがするよ?」
「ん? 甘い匂い…………あ」
首筋に顔を寄せたちびくろの言葉に、つい少し前までの行為を思い出す。
甘い味がした黒鷹の舌。首筋に這わされもした。
……まさか、湯を浴びてないから香りが残っていた?
「いや、気のせいだろう。
お前がお菓子を沢山持ってるからじゃないのか?」
「そうなのかな? ……うーん、まぁいいや」
内心の動揺も伝わらなかったようでほっとする。
抱いてたのがちびたかだったら、多分、これでひいてはくれなかっただろうから、その点がまだ幸いだった。
ちびくろの言葉は黒鷹も聞こえていたらしく、ちびがあらぬ方向を向いた隙に、目だけで「すまない」と謝ってきた。
悪気がないのは解っている。
……だけど、後でささやかな悪さの仕返しをするくらいは許される、よな?
2005/10/28 up
黒玄メールマガジン(PC版)第15回&第16回合併号配信分その2。
ハロウィン話となると、どことなく玄冬が積極的になりがちなのは何故だw
Party Night~one more nightと微妙にリンク。
- 2008/01/01 (火) 00:27
- 年齢制限無