作品
懐かしい味
「ちび、苦しいか? ……何か欲しいものは?」
ちびくろの額のタオルを取り替えてやりながらきいてみる。
昨日から熱を出していて、酷く辛そうだ。
食べてもすぐに吐いてしまって、ここ二日まともに物も食べられてはいない。
せめて、少しでも栄養が取れるなら何でもいいんだが。
「…………ん。あのね、りんご。……すりおろしたのがいいな」
「食えそうか?」
こくんと頷くちびに少し待ってろと言い置いて台所に戻る。
確か、りんごはストックがあったはずだ。
棚から取り出して、皮を剥いていると、黒鷹とちびたかが揃ってやってきた。
「あれ? 玄冬、ちびくろはどうしたね?」
「ん、今りんごのすりおろしたのが欲しいと言ってたから、やろうと思ってな」
「え、俺も欲しい! 剥くだけじゃなくてちゃんとすりおろしたやつ!」
「私も頼むよ」
「……お前ら、別に病人じゃないだろう」
わざわざすりおろさなくたって、大丈夫じゃないのかと言うと、ちびたかが軽く拗ねた表情になる。
「えー、いいじゃん。俺だって食べたいもん」
「構わないじゃないか。ちょっと手間が増えるくらい」
「そうは言うが、手間が増えるのは誰だと思っているんだ」
それでもついでだし、と他二人の分も一緒に皮を剥いてすりおろす。
りんごの甘い匂いが漂うとちびたかが待ちきれなかったのか、
指を伸ばして掬い取り、口元に運ぶ。
「あ、こら! 行儀の悪い!」
「だって、美味しそうだったんだもん。
……懐かしいなぁ。すりおろしたの食べたの何時振りかな」
「? そんなに懐かしがるほどか?」
「ちびくろと違って、ちびたかはあまり熱を出さないからね」
「あ……そう、か」
懐かしいと言っても無理はないのかも知れないな。
そういえば、俺もすりおろしたりんごなんて、子どもの頃に黒鷹がやってくれたのを食べたきりかも知れない。
俺の時も特に熱を出していたとか、そういうわけではなかったな。
離乳食の時にこうやったんだよ、とは言われた覚えはある。
ちびくろのところに持っていって、食べさせて。
その後は自分でも食べてみようか。久しぶりに。
2005/?/? up
「amourette@718」(お題配布終了)で配布されていた
「食に関する10のお題」よりNo4を使って書いた話。
- 2013/09/14 (土) 21:27
- 年齢制限無
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