作品
ある休日の一幕・後日談
「すみません、隊長。この書類に至急判をお願いできますか?」
「ん? ああ。……もしかして、それ取り換えたのか?」
書類を隊長に渡したら、私の顔を訝しげに見てそんなことをおっしゃったから、直ぐに何を指しているのかは解った。
「グラスコードですか。ええ。
良い物でしょう? 大切な方に頂いた物なんですよ」
大切な方、というところをわざと強調すると、銀朱隊長が戸惑うような表情になられた。
「む、そうか」
「……気になりますか? 誰からのものか」
「……別に。俺には関係ないことだろう」
「あの、隊長?」
「あ?」
「……書類が逆さまなんですが」
「………………」
沈黙に吹き出しそうになるのを必死で堪える。
銀朱隊長が真っ赤になって、勢いよく書類を正しい位置に戻し、素早くそれに判を押して、私につき返した。
「ほら! とっとと持って行け!」
「はいはい。隊長」
「何だ」
こちらがまだ笑いを堪えているのが伝わるのか、憮然とした声で返される。
ふふ、解りやすくてよいですね、この方は。
「お父上によろしくお伝え下さい。
……有り難うございます、お蔭で楽しめました、と」
「? 何のことだ?」
「隊長はお解りにならなくてもいいですよ。
灰名様はきっとそれだけで解ってくださいますから」
「む……」
あの方の涼やかな顔色を変える事は中々出来ませんが、銀朱隊長はその点、貴方と違いすぎていて面白いですよ、灰名様。
貴方に振り回された分、少し銀朱隊長にお返しするくらいは反則ではないと思っていますが、いかがでしょうか。
日々楽しく仕事が出来る私は幸せものですよ。
私を引き抜いて、この仕事に抜擢して下さったこと、本当に感謝しています。
ねぇ、灰名様。
2006/11/05 発行
個人誌『白銀の地に落ちるは柔らかな日差し』から。
タイトルどおりある休日の一幕の後日談。
ほとんど手は加えてません。灰文前提文銀風味。
カプ要素あるんだか、ないんだかですが。
- 2009/01/01 (木) 00:05
- 灰文