作品
正しき(?)羽根の再利用法
Part1:羽
「……あ、またあいつやってたな」
黒鷹が出かけている隙に、居間の掃除をしようとしたら、ところどころに散らかっていた黒い羽。
恐らく鳥の姿になって床の上を転がっていたんだろう。
それは黒鷹の癖の1つだ。
何が楽しいのかは、俺にはよくわからないが。
自分の部屋でやればいいものを、あいつの部屋は常時散らかっているものだから、転がる余裕のある居間でやっている。
いつも、捨てようとは思うのだが、なんとなく手にするとそんな気にもならず、つい羽を一箇所に纏めて置いてしまっている。
「どうしたものか。……あ、そうだ」
ふと、ソファのクッションに目が行き、1つ利用法を思いつけた。
***
「……これで、よし」
集めた羽を自分の枕に詰め込んで。
頭を乗せて、感触を確かめた。
ふわり、と柔らかくて心地よい。
それに何より。
ほんのりとだが、黒鷹の匂いがする。
「……悪くないな」
きっと言ったらつけあがるだろうから、
これはあいつには秘密にしておこう。
Part2:羽根の行方
読もうと思っていた本は棚になく。
何処かに置きっぱなしにしていただろうかと、記憶を辿って思い出した。
つい3日前に玄冬に貸したばかりだった。
玄冬はちょうど今、村まで買い物に行っている。
帰って来るのを待っていてもいいが、気になってるのは一箇所だけで、ちょっと目を通して確認さえすれば気が済む。
仕方ない。
どうせ、勝手に部屋に入っても怒る子でもない。
ちょっとだけ邪魔をして読ませてもらおうと、玄冬の部屋に向かい、居もしないのをわかっていながら、一応形だけノックをして部屋に入った。
相変わらず整頓されている部屋において、目的の物を探すのは造作も無い。
間もなくベッドの上、枕の横に置かれている本に気付いた。
昨夜寝る前に読んでいたと見える。
手に取り、栞の挟んでいるページを確認し、用のあるところだけ読んで、すっきりしたところで元通りに本を戻そうとし……枕から僅かにはみ出たものに気付いた。
「……これ、は?」
茶色い馴染んだ色。
もしかして、とはみ出たものを引っ張ってみると出てきたのは羽根。
これは私の羽根だ。
まさか、と思い枕のカバーを捲り、中を覗き込むと見えたのは大量の羽根。
ちょっとやそっとでは集まらない位の量はある。
そうして不意に数日前のやりとりを思い出した。
――お前、床に転がるのはいいが羽根を散らかすな。毎回捨てる身にもなれ。
――おや、捨てているのかい? つれないなぁ。私の一部じゃないか。
――毎日、散らかるようなものに愛着が湧くと思うのか、お前は。髪の毛と変わらないだろう。
あんなことを言っていた癖に。
何だ、集めて取って置いていたんじゃないか。
玄冬のベッドに横になり、ぽん、と枕に頭を乗せるとほんのりと馴染んだ匂い。
つい口元に笑みが零れるのを抑えきれない。
「あの子も可愛いことをしてくれる」
きっと、色々考えずにはいられないだろう。
私と一緒に寝ない夜でも、気配を感じて眠っているようなものだ。
大抵二人で寝るときは、後始末の利便さなどから私の部屋で、というのが多いけど。
今夜は玄冬の部屋でと誘いをかけてみようか。
勿論枕のことなど知らないふりで。
そうして、枕の中身に気付いていると言った瞬間。
あの子はどんな顔をしてくれるだろう。
ああ、夜がとても楽しみだな。
Part3:気配に包まれ夢をみる
「今日は君の部屋がいいんだがね」
「え?」
夜、一緒に眠ろうと誘いをかけられたのはいつものことだが、珍しい提案につい聞き返してしまった。
一緒に寝る、というのは暗黙の了解みたいなところがあって、黒鷹の部屋で眠るということが大半だからだ。
あいつの寝室にはこじんまりとはしたものではあるが、バスルームがついているから、後始末が楽だという理由にもよる。
まぁ、後で普通に広いほうのバスルームに行けばいいと言ってしまえば
それまでの話だから、別に構わないと言おうとして、口を開きかけたところで……思い出した。
自分の枕には黒鷹の抜け落ちた羽根を使っていることを。
それを気付かれると何となく気まずい。というか気恥ずかしい。
「……何で、今日は俺の部屋で?」
「特に何てことはない。気分転換だよ。
バスルームの件だったら、終わった後に二人で湯を浴びにいけばいいことだし、君なら部屋が散らかっていて眠れないということだってないだろう?
何か問題が?」
先手を打たれた。確かに断る理由はない。
というより、これで断ったほうが不信感を抱かれることは目に見えている。
「……いや、問題ない」
だから、結局俺が言えたのはその一言。
「そうかい。では、早速行こうか」
気付かれなければいい、とひそりと思いながら黒鷹に手を引かれて自分の部屋に向かった。
***
なのに。
そんな日に限って黒鷹が耳やら首筋やら、そんな部分を責めるのがいつもよりしつこい。
「…………っ……ん」
いつ枕のことに気付くかと気が気ではない。
落ち着かなくて、自分の鼓動がいつもより速くなってしまっているのもわかる。
当然、触れている黒鷹が気付かないわけもないだろう。
案の定、俺の首筋に手を当て、黒鷹が俺を見下ろしながら言葉を紡ぐ。
「随分脈が速い。興奮しているかい?」
「そ……な、こと……は」
「ふふ、いつもと場所が違う所為なのかね。それとも」
耳元に黒鷹の口が近づいてきて、低い声の囁きが落ちる。
「枕のことが気になって仕方がない?」
「!!」
反射的に黒鷹の方に視線を向けたら、意地の悪い色を浮かべた目とぶつかった。
「お前……っ。いつから知っ…………あ」
そういえば。
昼間俺が出かけているときに、ちょっと本を確認するために部屋に入ったよ、と黒鷹が言っていたことを思い出す。
その時はただそうか、と流しただけだったけれども、あの時か!
「見当がついたみたいだね。君は隠し事をするのに向かないな、玄冬」
「っ!」
耳を甘噛みされて、つい黒鷹のシャツを掴んだ手に力が籠もる。
「毎回捨てる身にもなれ、だの。
毎日散らかるようなものに愛着なんて湧かないだの。
そんなことを言っていたのは誰だったっけねぇ」
「…………っ……く」
枕から取り出したのか、もう一方の空いた耳には羽根で撫で付けられる感触がした。
「可愛いことをしてくれるよね。
日中、理性を抑えつけるのにこれでも中々大変だったんだよ」
「涼しい顔を……していた癖に……よく、も」
「かけひきじゃ君には負けはしないさ。
せっかくだから、教えてあげようか」
「何、を」
呼吸まで随分速くなってしまっている。
ああ、もう。
「誤魔化すのなら、嘘の中に真実を取り入れたまえ。
嘘だけでは看破されるのは早いよ。
もっとも、そんな誤魔化すことの苦手な君が私としては可愛くてたまらないのだが」
こんなだから、黒鷹には敵わないんだ、俺は。
もう、隠さずに済むのだと、ほっとしてしまっている時点で負けは決定だ。
可愛すぎて加減が出来ないよ、と呟かれた言葉にも苦笑いしかできないのだから。
2005/07/30&2006/03/19&2006/06/18 up
続きものになった話をこの機にくっつけました。
Part1:羽は黒鷹好きさんへの10のお題のNo2から。
Part2:羽根の行方は黒玄メールマガジン(携帯版)第21回配信分。
Part3:気配に包まれ夢をみるは黒玄メールマガジン(携帯版)第22回配信分。
鷹の羽根は果たして、枕に使うのに適しているのだろうかということはこの際スルーさせて頂きますw
- 2008/01/01 (火) 00:11
- 黒玄