花帰葬-Novel

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相似・相反・相互作用

先ほどから、玄冬がじっと手鏡越しに自分の顔を見つめている。
最初は、そろそろお洒落にでも興味を持ち始めた年頃になったのかと思っていたが、それにしては、眉間に皺が刻まれっぱなしなのが気になる。
ついに数回目の小さな溜息を聞いた後に耐え切れなくなり、傍に寄っていって問いかけてみた。
 
「どうしたんだね? さっきから、ずっと鏡を見ては溜息じゃないか」
「…………っ……。お前、ずっと見てたのか?」
 
どうやら、私が見ていたのも気付いていなかったらしい。
割と露骨に視線を送っていたように思うのだが。
そんなに集中して何を考えていたのやら。
 
「自分の顔に何か気になるところでもあるのかい?
君なら心配せずともいい男に育つと思うが? 
私もいい男だが、君も中々……」
「そんなことじゃない。……なぁ、黒鷹」
「うん?」
 
鏡越しに玄冬の視線が私の方に向いた。
 
「お前と俺は全然似てないよな」
「まぁ、確かに似てはいないね」
「髪の色も目の色も違う。『親子』だったら、何処かが似るものじゃなかったのか?」
「一般的にはそうだけれどもね。
前にも言ったように、私達には血の繋がりはないからな」
「そうか。……血が繋がってないと『親子』でも似ないのか」
 
予想以上に意気消沈した声。
本当に残念そうに呟いた言葉がちくりと胸の奥を刺す。
 
「……一体どうしたんだい。何をそんなに気にしているんだね?」
「……せめて、髪の色と目の色がお前と一緒なら良かったのに。
そうしたら、似てなくても誰が見ても親子だって思ったはずだ」
 
何となく、言い出した理由の見当がついた。
先日、村に行った時。
私が少し買い物をしている間に、玄冬は村の子どもと何か話をしていたようだけど、買い物を済ませ、玄冬のところに戻った時に、この子が妙な顔つきで私をじっと見ていたことがある。
あの時はどうしたんだい? と促しても、何でもないと返されたけれど。
きっと、その時に話の中で何か出たんだろうな。
親子で似ている、似ていないとか何とか。
 
「……馬鹿なことを言うなぁ」
「え……うわっ!」
 
玄冬を膝の上にひょいと上げて、そのまま腕の中に収まった頭を撫で、鏡の中で驚いた表情になっている玄冬に笑いかけた。
 
「私は君の髪の色も目の色も大好きだよ。
私が一番好きな色はこの色だしね」
「黒鷹」
「もし、私と同じような髪や目だったとしてもだ。
私みたいな髪は大変だぞ? 
朝、いっつも盛大に乱れた髪を、時間をかけて整えなきゃならないのを君も見ているだろう。
玄冬みたいに寝癖のつかない髪が羨ましいね。
こういうのが似なくて良かったじゃないか」
 
実際、玄冬の髪は梳きやすくて触り心地も良い。
こうして撫でるのが私はとても好きだ。
 
「それは……」
「目だって。この色だと暗闇で光った時に怖いぞー? 
実際、夕暮れ時に村の子どもと遊んでいた君を迎えに行った時に、その子どもに言われたことがあるしな」
「俺は怖くない。俺は黒鷹の髪も目も好きだ」
「そりゃ、君は生まれたときから私を知っているわけだからね。
君に怖いと言われたら、流石に泣きたくなるな。……玄冬」
「うん?」
「確かに私達に血の繋がりはない。だけど、似ていようと似ていまいと私達が親子であることに違いはないよ。
それだけではダメかい?」
「…………ダメじゃない、けど」
 
納得は出来ない、というところか。
さて、どうしようかね。
さすがにお互いの外見を変えようもないし……鏡の中に映ったお互いの姿を見ながら、色々考えてみたが、不意に一つあることを思いついた。
 
「では、こういうのはどうだい? 
何か一目で私達の繋がりがわかるようなお揃いのものを身につけるというのは。
そうだな……例えば、腕章みたいなものとか」
「え……」
「そうしたら、誰が見ても私達に関係があることは直ぐにわかるよ。
外見が似てなくたってね。そういうのはどうかな?」
「それ…………欲しい」
「そうか、そうか。決まりだな。
じゃあ、早速何かお揃いにするものを考えようじゃないか」
「うん!」
 
珍しく、頬を染めて興奮してるような玄冬が可愛くて仕方がなかった。
 
***
 
「…………って、あんなことを言っていた頃が懐かしいねぇ。
ああ、あれほど私に似ていないことを残念がっていたのになぁ」
「俺はこの点がお前に似なくて、心の底から良かったと思っているがな。
話はいいから、とっととそれを食え。いい加減冷めるぞ」
「うーん、やっぱり誤魔化されてはくれないか」
「阿呆。今更そんな話で誤魔化されると思うか」
 
目の前には見事に緑黄色野菜尽くしにされた熱々のスープ。
そして、眉を顰めた玄冬がこっちを窺っている。
似ていようと似ていまいと親子であることに違いはない。
それは今もそう思っている。だが。
 
「この点に関しては少しは似てくれると嬉しかったなぁ……
そうしたら、日々言い争いにならずに済んだものを」
「言い争いになってるのは、お前が食わないからだろう。
それ以上、ぐだぐだ言うならスープの具を増やすぞ」
「おっと、それは勘弁。食べるよ、食べるから増やすのは勘弁してくれ」
 
スープの入った鍋を持って来ようとしかけた玄冬を制して、大人しくスープ皿の中にスプーンをつっこんだ。
少しずつスープを飲みながら、視界の隅で自分の腕章にさりげなく触れている玄冬を気取られないよう見つめる。 
あの時、揃いで誂えた腕章は今もお互いの腕にある。
服を着ている限りは外すこともなく。
習慣付いてしまった、とも言えるのだろうけど、今でも腕章を外すことのない君が可愛くてたまらないと。
言ったら、このスープをやり過ごす糸口にはなるのかも知れないが、それを口にするのは別の機会にしよう。
もっと、楽しく効果を期待できるだろう時にね。
ああ、そうだな。
似なくて良かったと思う点があるよ、私にも。
私の狡猾さが似ることなく、素直に育ってくれたのは非常に喜ばしいことだ。
ねぇ、玄冬。

2006/?/? up ※企画サイトでは2006年7月投稿
かつて運営していた企画サイトFlower's Mixでのコラボ作品です。
U様による原案内容は以下。
『テーマは「鏡」でお願いします。
文字通り鏡でも、鏡のように澄んだ湖面といった具合に類似しているものでもかまいません。
キャラ、CPともに特に限定しておりません。
皆様の鏡面世界、お待ちしております。』
……考えたら、キャラの指定がない原案はさっくり黒玄ばっかりな気がw
ここの二次創作脳内設定の一つに
『玄冬が小さい頃、黒鷹と同じ髪の色と目の色だったら良かったのに、と考えていた』というのがあって、鏡→外見について考える、の流れでこれが使えるなぁと思い、前々からやりたかった迷子札エピソードも絡めて話が出来ました。
しかし、後半になるほど鏡というモチーフが上手く伝わりきれないような話ですみません。
なお、一番最初に鏡、で思いついたのが『鏡の前での羞恥プr(略)』。
こんなん企画で使えるかー! と自主没になったというのは、大声では言えない裏事情w

  • 2008/01/01 (火) 00:14
  • 黒玄

タグ:[黒玄][黒鷹][玄冬][日常ほのぼの][黒鷹視点]

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