作品
Dreams of Valentine
「なぁ、黒鷹」
「うん? どうしたね?」
「本当にこうやって食べさせないと駄目か?」
「往生際が悪いよ。君が好きにしていいと言ったんじゃないか」
「それは……そうなんだが」
確かに言った。
が、今はその言葉を激しく後悔している。
バレンタインのチョコが欲しい、とそこまではよかった。
黒鷹はこういう行事にこだわるところが昔からあるし、別に今に始まったことでもない。
問題はついうっかりと俺が他に何か欲しいものはあるか、と問いかけてしまったこと。
***
「何でもいいのかい?」
「俺が作れたり、買えたりする範囲なら好きにしろ」
「そうだなぁ。……ああ! 作るのでも買うのでもないが、
君にしか出来ないことをお願いしてもいいかね?」
「俺にしか?」
「そう。そのチョコを口移しで食べさせてくれればいい。
ただし。チョコが口の中で溶け切ってしまうまでは唇は離さないこと」
「……何だと!?」
***
「ほらほら、覚悟を決めたまえよ。
いいじゃないか、他に誰が見てるわけでもなし」
「……う」
今度から言葉を言うときには気をつけることにしよう。
小さいチョコを一つ取り出し、口に含むと黒鷹の唇と自分のそれを重ねた。
唇を割って、舌が入り込んだかと思うと、口の中のチョコを弄ぶように転がす。
ただ、解けるのを大人しく待ってるだけかと思っていたところにふってわいた刺激に、驚いて口を離そうとしたが、いつの間にか黒鷹の手は俺の頭をしっかりと抑え込んでいて離そうとしない。
「ん……!」
口の中でチョコの塊が少しずつ小さくなっていくのが解る。
そして、チョコを転がすだけでなく、口の中を刺激していく黒鷹の舌の感触も。
ようやく、塊がほぼ無くなり唇が離れる。
その瞬間、鼻先をついた甘い香りに眩暈がしそうだった。
「黒鷹、お前……!」
「黙って溶けるのを待っているといった覚えはないよ。
それにこうした方が溶けるのは早いだろう?
……ほら、二つ目」
「……っ!」
半ば自棄で二つ目のチョコを口に含んで、再び黒鷹に口付ける。
心底楽しそうな眼が癪だったが、それならやり返してやるまでと、今度はこっちの方から積極的に舌を動かす。
黒鷹を喜ばすだけの反応になってしまっているのはわかっていても、つい、やり返さずにはいられなかった。
再び、チョコが溶け切って唇を離そうとしたら、そのまま肩を抱かれて
ソファに倒される。
首筋を撫でる、もう一方の指に微かに身体が疼いた。
こんなことをしていて、興奮しないわけがない。
お互いに。
「誘っていると受け取っていいのかね、それは」
「……好きにしろ」
黒鷹の言葉にも艶が混じる。
口移しで、と言われたときから、そうなるんじゃないかと予想はしていた。
予想よりは随分早い展開にはなったけれど。
「玄冬」
「うん?」
「……その言葉、私の前以外では使うんじゃないよ」
かかる吐息が甘い。
「君を好きにしていいのは、私だけなのだから」
黒鷹がチョコを一つ取って、口に含む。
誘われた口付けに応じながら苦笑した。
チョコより何より甘いのは、拒むことのできない自分だな、と。
2005/02/18 up
4日遅れでupした2005年バレンタイン話。
黒玄がバカップルなのはここの仕様です(爽)
- 2008/01/01 (火) 00:16
- 黒玄