作品
この闇を越えて(黒玄前提救鷹)
――キリエ・エレイソン、クリステ・エレイソン……
――お休み、私の愛しい子。優しい翼に抱かれてせめて一時……
「何それ。……子守唄?」
「いや。いつだったかどこかの国で使われていた古い鎮魂歌(レクイエム)だよ」
胸に抱いたままの小さな玄冬の髪を梳きながら答えた。
徐々に体温の失せつつある身体は、それでもまだ手放し難く。
いつもの様に微笑みながら逝った玄冬につられてか、私も微笑んでいた。
「ねぇ。俺もその子、撫でてあげていい?」
桜色の髪の彼はどうしたわけか、『役目』が終わっても引き揚げもせず。
ただ、黙って私たちの傍にいたかと思うと、不意にそんなことを言った。
「……いいよ」
手をひいて促すと、救世主は玄冬の髪に触れた。
静かに優しく撫でる。
「……玄冬を嫌いじゃ無かったよ」
「知っているさ」
君は役目を果たしただけだ。
「……できれば、殺したくなかった」
「……すまないね」
望んでいたのは私たち。
「可哀想だね」
「思わなくていいよ、そんなこと」
「俺が言ってるのは、その子のことじゃない。
アンタのことだよ、黒鷹サン」
「私……がかい?」
「うん」
「それこそ、思わなくていいさ」
「そうかな。でも俺が思うのは勝手でしょ?」
「…………」
「慣れたんじゃなくて、慣らしたんでしょ? 泣くことも忘れるように」
「……どうだろうね」
撫でることを休めない手。
この手が数刻前に玄冬を殺した。
「玄冬が生きてる間、黒鷹サンを慰めてくれるのが玄冬だとしたら」
「うん?」
「じゃあ、今は誰がアンタを慰めるの?」
「それもまた、玄冬なんだよ」
だって、これでまた会えるから。
永い時を待たなければならないけど、また、会える。
だから、寂しくなんてない。
玄冬を想う間は。
「やっぱり、アンタ可哀想だ」
「余計な世話だよ」
「そうなんだろうね。……眠れるといいね、安らかに」
「ああ」
――キリエ・エレイソン、クリステ・エレイソン……
――お休み、私の愛しい子。優しい翼に抱かれて。
――せめて、一時。君の魂が光に包まれ、安息を得られますように。
もう一度、歌を口ずさんで。
いつの間にか玄冬を撫でていた手が私の頭を撫でているのに気付いたが、それにはされるがままでいた。
心地よい手の感触は嫌いではない。
2005/02/16 up
雪花亭で配布されている
「花帰葬好きさんに22のお題」よりNo7。
珍しく鷹が救世主にちょっと優し目だw
キリエ・エレイソン、クリステ・エレイソンとかいうのはミサ曲で始めの方に詠唱する会衆の憐れみを求める叫びとかそんなんです。
なんとなくいれてみました。
(これ語ると長いので割愛。気になる方は適当に有名どころの
モーツァルトとかフォーレのレクイエムでもチェックして下さい。(不親切))
- 2009/01/01 (木) 00:10
- 黒玄前提他カプ