作品
滅び
[Kurotaka's Side]
「君はいつだって何も言わなかった」
「……黒鷹」
哀しい表情の玄冬に微笑いかける。
一層、玄冬の顔が歪んだ。
「結局は、自分で選ぶことを拒んで、時に身を任せただけで」
「……違う」
玄冬の頬に手を添える。
血で濡れた手を。
玄冬はそれを払おうともせず、私の顔をまっすぐ見ただけだった。
「君は何も言わなかった」
「俺は…………!」
――誰も死なせたくなかった。
唇だけがそう動く。
それならそうと言えばよかった。
言葉にさえしてくれたのなら、私はその望みを叶えてあげたのに。
言わなかった君。促さなかった私。
そして、足元に転がる躯。
二度と赤い瞳は開かれることはない。
「私は君を死なせたくなかったんだよ」
世界が滅びるか。君が死ぬか。
ならば私がどちらを選ぶか。
君はわかっていたはずだ。知らなかったなんて言わせない。
「もう道はないよ」
抱きかかえた腕にも逆らわず、玄冬は空を仰いだ。
一層降りの激しくなった雪が降りしきる空を。
「言わなかった君が悪い」
「……逃げた、からか」
「うん?」
「逃げた報いなのか……?」
「……さあね」
どの道、もう何一つ変わらない。
世界は滅び、君は生きる。
ただそれだけだ。
「さぁ、見に行こうか」
世界の終焉を。
静かな白い世界はきっとどこも美しい。
[Kuroto's Side]
「君はいつだって何も言わなかった」
「……黒鷹」
黒鷹が微笑む。
どこか虚ろな目をして。
「結局は、自分で選ぶことを拒んで、時に身を任せただけで」
「……違う」
頬に手を添えられた黒鷹の手。
血の臭いが鼻をつく。
「君は何も言わなかった」
「俺は…………!」
ただ、誰も死なせたくなかっただけなのに。
言わなかったからか?
だからお前を追い詰めたのか?
足元で伏せる花白の身体の上に雪が積もり始める。
ぬくもりの失せた身体は雪を溶かさない。
徐々に白く埋められていく。
まさか、黒鷹が道を絶ってしまうなんて誰が思った?
「私は君を死なせたくなかったんだよ」
……いや、本当に俺は思わなかったか? 少しでも。
俺の為に黒鷹が動いてくれると思わなかったか?
黒鷹が動けば俺の所為ではないと思い込もうとはしなかったか?
「もう道はないよ」
優しく抱かれたけど、まともに顔を見れずに空を仰ぐ。
もう止まない雪の降る空を。
「言わなかった君が悪い」
「……逃げた、からか」
「うん?」
「逃げた報いなのか……?」
「……さあね」
報いだ。
黒鷹から逃れようと、それでいて黒鷹をどこかで当てにしていた俺への。
世界が終わる。俺が生き続ける。
黒鷹の望みどおりに。
……そして、本当は俺の望みでもあったかも知れない。
やっぱり許されはしなかった。
「さぁ、見に行こうか」
黒鷹の温もりだけが確かなものとしてある。
俺の中で何かが壊れた。
ああ、そうだ。
この雪が全て覆い尽くしてしまえばいい。
世界も、咎も、望みも全て――。
2005/03/25&2005/05/02 up
「花帰葬好きさんに15のお題」(閉鎖済)で配布されていた
お題のNo6を使って書いた話です。
黒鷹視点を先にサイトで書いた後、玄冬視点を黒玄メールマガジン(携帯版)第9回配信分で書いたものを合体させてます。
ほんのり壊れ気味でほんのりダーク。
逃げる「だけ」で自分では選べなかった玄冬と、逃げることを許容できなかった黒鷹。
鷹の狡い部分がイヤな形で玄冬が似てしまったことで生じた滅びへの道。
- 2008/01/01 (火) 00:25
- 黒玄