作品
告白(黒玄前提主鷹)
欲しいのは赦しではない。
なぜなら、この罪こそが私たちを繋ぐ絆。
この箱庭が続く限り、永遠に私たちは…………。
***
「滑稽なものだな」
「……何の御用ですか」
「この箱庭を残せと願った結果があれか」
主の影は窓の外に舞う桜の花びらを眺め、苦笑を零す。
「あれがお前の願いか」
「…………」
「殺せと願う終焉の子を本気で繰り返し、育て殺していくつもりか」
「……何が言いたいんですか。いえ、何を言わせたいんですか」
皮肉な笑みに皮肉な笑みで返す。
今は一番見たくない顔だった。
この笑みが自分のそれと酷似していることを、私は嫌というほど知っている。
ソファに横になったまま起き上がらすにいると、主は私の枕元に積み重なった上に置かれた眼鏡に手を伸ばす。
「それに触れないで下さい」
「……それほど我に踏み込まれたくないような相手を何故みすみす死なせた?」
「馬鹿にしないで下さい。死なせたくて死なせたんじゃない」
「ほう?」
「生まれた時から見ていたんです。傍にいたんです。
……あの子が一度決めた意見を違え様と思わぬことくらい知っています。嫌というほど」
――俺を殺し続けてくれ。生まれてくる限りずっと。
もう1つの方法を告げられず、あの子の願いを聞いた私。
それが私にとってどんな酷な願いかを知っていながら、請うたあの子。
私たちは同罪なのだ。
そしてそれこそが。私たちを繋ぐ。
私はあの子に逢うために、ここに留まり続け、あの子は私に育てられ、殺されるために生まれてくる。
「……わからぬな」
「わかって貰おうなどとは思っておりませんよ。主。
私はわかって貰うことも、赦しを請うことも望んでいません」
これは赦されざる罪であるべきなのだ。
貴方と離れ、玄冬を選び、あの子と共に在り続けることを願った。
貴方に作られた鳥なのに、私はあの子を選んだ。
いつか貴方と過ごした年月よりも、あの子と過ごす年月が長くなるでしょう。
貴方の道と私の道はとうの昔に交わらないものだ。
ああ、貴方はよく出来損ないと言っていましたっけね。
だから、構わないでしょう。
私が玄冬に執着していても。
愛しいと、触れたいと、全てが欲しいと。
私が思うのはあの子だけなのですから。
あの子をこの腕に抱く日を夢見て、私はここに居続ける。
貴方の傍ではなく。
「出来損ないが」
かつては、その言葉に愛しさを感じ、触れる指に秘めた熱を知り、貴方に従った私はもういない。
「ご存知でしょう?」
だから、嘲笑う。
この焦がれる熱は、想いはもうあの子に対してだけのもの。
貴方といえども、邪魔はさせませんよ、主。
枕元の眼鏡を取り、それをかけて。
あの子の望んだ世界を見る。
今はただ一人で。
2005/08/17 up
「惑楽」(お題配布終了)で配布されていた
「萌えフレーズ100題」よりNo33を使って書いた話です。
黒鷹と研究者のひねくれた関係性が割りと好き。
- 2009/01/01 (木) 00:10
- 黒玄前提他カプ