作品
差
「……おや? ちょっと待ち給え、玄冬」
「ん? 何だ」
「……そこに立って見てくれないか」
黒鷹が居間の壁を指してそう言ったのを、意図を図り兼ねて尋ねる。
「どうしたというんだ?」
「いいから。ほら、壁に背をくっつけて」
「ん……こうか?」
「そう、頭もだよ……。ふむ。いいよ、よけ給え」
「一体何……あ」
「むう、ついに追い越されてしまったか」
黒鷹が悔しそうに呟く。
柱にはさっき軽くつけたキズがある。
そして、そのキズの少し下にある黒鷹の手。それで気がついた。
何時の間にか、俺の背が黒鷹の背をちょっと追い越していたことに。
そういえば、黒鷹の目線が僅かに俺のよりも下だ。
「おかしいなぁ、成長期はとうに過ぎていたと思ったんだが」
「俺は誰かと違って偏食はしないからな」
「ぐ……」
ちょっとだけ、得意な気持ちになってそう言って見る。
本当は自分でもまだ背が伸びているなんて思ってなかったが。
20歳は過ぎていたのだから、伸びないと思っていて当然だろう。
「ううむ。まさかこの後に及んで、追い越されてしまうとはね」
「……なんか、凄く悔しそうじゃないか、お前」
「悔しいさ、悔しいとも! こんなところで差がついてしまうなんて予想はしていなかったのだからね」
「……差?」
「親と子としての差だよ! 私としては子どもに背を追い越されて、苦笑する親というシチュエーションよりは、いつまでも子どもより大きくて、頼られる親というシチュエーションをやりたかったというのに!」
「なんだ、そのシチュエーションって……」
こう言うのも何だが、ちょっと脱力するような理由だ。
「どうせ、一生お前に敵わないことも沢山あるんだから、いいだろうに」
聞こえると調子に乗るだろうから、こっそりと呟いたつもりの独り言だったが。
生憎としっかり聞こえてしまっていたらしい。
「ん? ……今何か言ったね?」
「いや、何でも無い」
「もう一度! もう一度言ってくれ給え! 一生なんだって!?」
「……知らん! 何でも無いったら!」
「いや、君の口から聞きたいよ。『一生お前に適わないことも沢山……』」
「っ! 聞こえてたんなら、恥ずかしい言葉を繰り返すな!」
こういうところも敵わないと思う。
どうせ、差が埋まらないことだらけなんだ。
身長差くらいは大目に見ておけ。
2004/07/11 up
「花帰葬好きさんに15のお題」(閉鎖済)で配布されていた
お題のNo11を使って書いた話です。
玄冬視点で展開した身長差ネタ。
微妙に当時Web拍手で使っていた「こだわり」とネタが被りますが、
そっちよりは「親子」という感じを出してみたのでこちらに。
差っていうのは色々思いつくのですが、真っ先に出たのは身長差でした。
20歳過ぎてから、玄冬が黒鷹の背を追い越したというのが、脳内設定の1つです。
フェイントくらった鷹の図。(笑)
- 2013/09/13 (金) 08:10
- 黒親子(カプ要素無)