作品
Happy Birthday&After Party
「なぁ、そういえばお前の誕生日っていつなんだ?」
あれは玄冬が幾つの時だっただろうか。
隠し切れない渋い顔で、それでも私の作ったケーキを文句一つ言わずに、
食べてくれた君はそんなことを言ってきた。
「うーん……実は私もよくわからないんだよ」
「……わからない?」
「ほら、もう私は君より大分長く生きているからね。忘れてしまったな」
厳密にはこの箱庭と時間の流れの違うところで私は創られたから、
説明するのが難しい、というのが正しいだろうか。
どちらにしろ、私はあまり誕生日というのに執着がなかったし、興味もなかった。
玄冬には私が出来る限りのことをしてやりたいし、
共に過ごせる時間が貴いもので、生まれてきてくれたことに感謝をしているから
こうして祝っているけど、だからと言って自分が祝って欲しいと思ったことは無い。
「……不公平だな」
「うん?」
「俺はちゃんと祝ってもらってるのに、お前は祝ってないなんて。……うん、決めた」
「何をだい?」
「来年から俺の誕生日とお前の誕生日を一緒の日ってことにして、お互いに祝おう」
「私はさして興味もないんだけどねぇ」
「……俺が嫌なんだ」
憮然とした顔は怒ってるというよりは、傷ついてるようにも見えた。
「だってお前が、俺を……」
***
「……ふふ」
かちん、とテーブル越しに合わせたグラスの心地よい音につい笑みが零れる。
「? 何笑っているんだ? 黒鷹」
「いや、君とこうして一緒に誕生日を祝うのは何回目だったかなと、懐かしく思ってね」
「……いつだったか、お前が作ってくれたケーキは酷いものだったな」
「それでも君は残さず食べてくれたじゃないか」
「あの時は腹を下すことの無い自分の体質に心底感謝した」
「酷いなぁ。私は食べなくてもいいよって言ったじゃないか」
「そう言われて、わかったなんて言えるか。
……必死に材料と格闘しながら作っていた過程を見てたのに」
いつしかケーキは玄冬が作った美味しいものに変わり、ジュースを飲み交わす代わりに
アルコールを飲み交わすようになるほどに月日の経った今でも。
あの時に玄冬が言った言葉は鮮明に覚えている。
――お前が俺がいて良かったって、こうして祝ってくれるなら、俺もお前を祝いたい。
――俺だって、お前がいて良かったって思っているんだから。
「ん! 美味しいね、このワインは。いい仕上がりじゃないか」
「……飲みすぎるなよ」
「せっかくの祝いの日に固いことは言いっこなしだ」
年に一度の楽しみは存分に味わわないとだよ、玄冬。
***
「すー……」
「……やっぱりな。こうなるだろうとは思っていた」
一通り、台所の後片付けを済ませた後、居間に行って見ると
テーブルの上には空いた酒瓶。ソファには酔いつぶれた黒鷹の姿。
予想通り過ぎて、苦笑を零すほかにない。
祝い事をやりたがる割には、片付けとかは結局いつも俺の役目だ。
……わかっていても、見逃してしまうのはやっぱり気分が高揚しているからだろう。
自分が『玄冬』だと知った直後。どうしても誕生日を祝う気になれなかったのを、
再び楽しめるようになったのは、こいつがいてくれたからに他ならない。
俺がいてくれてよかったと言ってくれる。そして、俺もお前がいてくれてよかったと思う。
お互いがそれぞれ相手の存在に感謝するという日だと思えばこそ、
年に一度のこの日を素直に祝うことができる。
「……有り難う」
黒鷹の身体にブランケットだけ掛けて、部屋の灯りを落とした。
願わくば、来年の今日もまたこうして過ごせることを。
2005/05/14 up
珍しく成人した玄冬との健全親子話。前半は黒鷹視点で、後半が玄冬視点。
黒鷹が誕生日不明なので、じゃあ玄冬と一緒に祝おうという主旨の元に、2005年・2006年の玄冬誕生日前後に「K&K Birthday Party」という企画サイトを作成しまして、そこのWeb拍手で使っていた話の加筆修正版です。
- 2013/09/13 (金) 08:15
- 黒親子(カプ要素無)