作品
Trick or Treat!
ガッシャーン!! ガラ……ガラ……。
何か、物が落ちたような派手な音が不意に家中に響いた。
「……何をやってるんだ、あいつは」
出所は黒鷹の部屋からだ。
溜め息をつきながら、あいつの部屋に向かった。
部屋の扉を軽くノックして、返事は待たないでそのまま入る。
予想通りに足の踏み場もないような惨状の部屋。
その部屋の真ん中で、黒鷹が大きい帽子と小さい帽子、同じ形をしたそれらを見比べているところだった。
いつも黒鷹が被っている帽子とは違い、頂点に向かって三角のシルエットになっているものは、どこか記憶にひっかかった。
……なんだっただろうか。
黒鷹が俺が入ってきたのに気付いて、視線をこっちに投げかける。
「おや、玄冬。どうしたんだね?」
「それはこっちの台詞だ。一体、何をやっているのかと思えば」
「いやぁ、今日ちょっと人里に下りてみたら、祭をやっていてね」
「祭?」
「ほら、ハロウィンだよ。昔、君とも参加したことがあったじゃないか」
「ああ、そういえば……」
それで、黒鷹が手にしている 帽子と記憶がぶつかった。
あれはその時に仮装していて、使った時のものだ。
だから、懐かしさに昔のものを引っ張り出していたのか。
「……よく取っておいてたな、それ」
「思い出したのかい」
「そりゃな。お前がとにかく、会った人、会った人に
『可愛いだろう、うちの子は!』とか言ってまわるから、どれだけ恥ずかしかったか」
「酷いなぁ。実際、凄く可愛かったじゃないか。
自慢の息子を連れ歩きたくなるのは、親として当然だろうに」
言いつつ、黒鷹が小さい方の帽子を手に、床に散らかっているものを器用によけて、俺の方に来た。
そして、頭に帽子をぽとんと乗せる。
かつては確かに被っていたはずの帽子はもう小さくて入らない。
少しだけ、そのときのことを思い出して、笑った。
「Trick or Treat……だったか?」
「そう。で、それに応じる言葉がHappy Halloween。
やるかね? 久しぶりに」
「二人でか?」
しかも、もうすぐ日付の変わる時間だ。
祭りの日はじきに終わりを告げる。
「いいじゃないか。こういうのは雰囲気を楽しむものだよ」
「……好きだよな」
「うん?」
「祭りごと。お前、昔からそういうのやりたがるな」
「楽しいからね。お祭りはなんだって。君は楽しくないのかい?」
「そういうわけでもないが……二人だけでやるのは祭りと言えるのか?」
「おや? じゃあ、他に二人だけでできることでもやるかい?」
「……って、おい!」
そのまま、近くにあったソファに押し倒されて、上に乗られる。
頭に乗っていた帽子が床に落ちた。
「『何かおくれ。でないと悪さをするよ』
……こういうのも悪さになるんだろうかね?」
耳にそっと触れる指と悪戯を企む子どものような目。
やれやれ、部屋がこの状態だというのにな。仕方のないやつだ。
「……知るか」
「あれ? 抵抗しないのかい?」
「したら止めるのか?」
「止めないかな」
「だったら、一緒だろう」
「聞きわけがいいのも、考えものだねぇ」
「……ィン……」
「? 何か言ったかい?」
「何でもない」
ただ笑って、意図を掴みかねている黒鷹の唇に自分からキスをした。
こんな夜も悪くない。
子どもの頃とは違う。
甘いお菓子をくれるよりも甘い言葉としぐさが欲しい。
二人きりのハロウィンパーティはこれから、だ。
2004/10/31 up
2004年ハロウィン1日限定だった小説を、バレンタイン過ぎて改めて出したものです。
ハロウィンとなると、うちの玄冬が積極的な傾向にあるのは何故(笑)
- 2013/09/13 (金) 08:40
- 黒玄