作品
約束
[Kuroto's Side]
「すまないね」
驚くほどに穏やかで優しい声だった。
「もう、守れないよ」
直ぐに口付けの交わせそうな距離にある顔は微笑んでいる。
「疲れてしまったんだ。……共に逝かせてくれたまえよ」
黒鷹の顔の向こうにいる、桜色の髪の男の目が驚きに見開かれている。
男の持っていた剣は、俺と黒鷹の身体を貫いていた。
痛みは感じないくせに、腹で流れるお互いの血の感触だけは変に生々しい。
生暖かい体液。汗も唾液も精液も数え切れないほど交じり合わせたのに、
血を交じり合わせたのは初めてかも知れない。
……ああ、そうか。悪くないな。
もう、ずっと長い間守ってくれていた。
だから、開放してやるよ。
「……有り難う」
今まで、約束を守ってくれて。
その言葉に黒鷹の目が一層優しくなった。
きっと、俺の顔も微笑っている。
頬に手が伸ばされ、寄せられた唇を重ねる。
血の匂いと味はどちらのものだろうか。
いや、もうどちらでもいい。
一緒なのだから、俺たちは。
身体が傾いで、二人で地に伏せる。
力の入らなくなりつつある指を合わせて絡めた。
一緒に眠ろう。ずっと、ずっと。
「……おやすみ」
「ああ。……おやすみ」
目を閉じて、黒鷹を感じながら。
遠のく意識に思う。
このまま共に在れるように、と。
[Kurotaka's Side]
「すまないね」
ずっと守っていける。
玄冬に繰り返し逢えるなら。
……かつてはそう思っていたのに。
「もう、守れないよ」
捕われてしまった。別の誘惑に。
二人でこのまま逝けたら、と。
目を見開いた君に、微笑んだ。
君は許してくれるだろうか?
「疲れてしまったんだ。……共に逝かせてくれたまえよ」
身体を支配してるのは痛みではなく、安らぎ。
もうこれで離れない。
この子の死に逝くところを見ずに済む。
生温かい血の感触は心地良くさえある。
今、この瞬間が幸せだといったら、君は呆れるだろうか?
「……有り難う」
玄冬の目が優しく微笑んだ。
ああ。いいんだね。一緒に逝っても。
頬に手を添えて、口付けをして。
交わる血の味は甘美に酔う。
自由の利かなくなった身体が、どちらからともなく崩れ落ちる中で玄冬と手を繋いだ。
絡めた指は二度と離さない。このままずっと。
優しい眠りに二人でつこう。
誰より何より。愛しい私の子。
「……おやすみ」
まるで、いつもの夜眠る前のように。
「ああ。……おやすみ」
交わした挨拶。
そう、いつもと変わらなかった。
このまま二度と目が覚めないだろうこと以外には。
2005/01/30&2005/03/05 up
花帰葬好きさんに15のお題(閉鎖)で配布されていた
「花帰葬好きさんに15のお題」よりNo13を使って書いた話です。
サイトで玄冬視点を書いた後に、
黒玄メールマガジン第5回配信分で黒鷹視点。
破ってしまう約束による心中ネタ。
剣で二人の大の男の身体を貫くのは、まず無理でしょうが、あえてw
別バージョンでさらに玄黒になったのはこちら。
- 2013/09/13 (金) 08:41
- 黒玄