作品
世界を埋める赤と白
「そろそろ貰うよ」
「ああ」
黒鷹が俺の内股に顔を寄せて、その部分の肉を喰いちぎる。
「……っ」
鋭く走った痛みに続いて、白い雪にぽたりと落ちた赤い血。
赤い染みはどんどん雪を溶かし、白は赤に変わる。
肉を喰らい続けているのに、痛みがほどなく消えたのは黒鷹が力を使ったからだろう。
「……力は使わなくてもいいと言っているのに」
「なるべく痛い思いをさせたくないからね。
そういう君だって逆の時に力を使うくせに」
黒鷹が赤く染まった口元を拭う。
そんな光景にも慣れた。
白い首筋に付着した血。
顔を近づけ、舌で拭うと黒鷹の喉を鳴らす音が聞こえる。
……渇く。その音に喉が渇く。潤したい。
「……飲むかい?」
察した黒鷹がそう問いかけてくる。
「大丈夫か?」
「ああ」
「……それなら、少し貰う」
「…………っ」
そのまま首筋に歯を立て、皮膚を裂く。
温かい血が喉を通っていく感触にようやく渇きが癒えた。
何時からだろう。
互いに何も纏っていないのに、寒いとも冷たいとも感じなくなったのは。
そのくせ血や肌の温かさだけは強く感じる。
温かさを感じるということは、冷たさなども感じていないはずはないのに、それが麻痺している。
何かがおかしい。
わかっているのに、黒鷹も俺も、この世界を出ようとはしなかった。
俺たち以外には雪しかないこの世界で、飢えないように黒鷹は俺の肉を喰らい、俺は黒鷹の血を飲む。
黒鷹の血は俺の肉を作り、俺の肉が黒鷹の血を作る。
そうして、凍えないように時折抱き合い、他に何もない世界で二人きりで過ごしていく。
どこかに理性を置き去りにして。
もうそれは暗黙の了解。
だから、渇きを癒し、唇を離した後。
当然のように触れてきた黒鷹に身を預けた。
そう、いつもの、ように。
2005/08/10 up
黒玄メールマガジン(携帯版)第11回配信分から。
雪で黒親子二人以外は滅んだ世界の話。玄冬視点。
でもって、全裸でほんのりグロ。
注意書きはちょっと迷ったけど、このくらいなら大丈夫かなと。
(大丈夫じゃなかった方すみません)
黒鷹の方は飢えたら死ぬので、栄養源は玄冬です。
血液の嘔吐作用? 知らんがな(笑)
- 2013/09/13 (金) 08:53
- 黒玄