作品
自力で開くことはできない(黒玄前提救こく)
生まれた時から他の場所を知らない。
この部屋から俺は出てはいけないと言われていた。
――外には、君を狙う怖いものたちが一杯なんだよ。
黒鷹はそう言った、決してここから出てはいけないよ、と。
それでいいと思っていた。
高い場所にある窓から見えた赤い瞳の、黒鷹以外の人間に逢うまでは。
「おいでよ」
窓の格子の隙間から手だけ差し出して、そいつは言った。
「行けない」
「そこにいたままだと、そのうち殺されちゃうよ。それでもいいの?」
「……いい」
だって、ここは出ちゃいけないんだ。
この部屋の扉を俺は開けることは出来ない。
何度か試したけど、出られなかった。
だからそう言ったら、そいつは笑ったんだ。
「じゃあ、俺が出してあげる。
俺が開けたら、そこから出られるデショ?」
「……黒鷹は出ちゃいけないって言った」
「……そ。じゃ、黒鷹サンがいないなら大丈夫だね?」
手が引っ込められて、そこから赤い瞳が居なくなった。
あれから二晩。黒鷹が来ない。
こんなことなかったのに。どうして?
どうして、黒鷹は来ないの?
やっぱりちょっとでも、外に行って見たいなんて、思ってはいけなかったんだ。
もう、思わない。ずっとここにいる。
ねぇ、だから。
早く、来て……。黒鷹。
2005/10/17 up
一日一黒玄から。
花々(閉鎖) が配布されていた「諦めにも似た10題」、No2。
このお題シリーズ、イメージ的に春告げの鳥ばっかりになるので、しばらく避けてたんですけど、最終的には誘惑に負けて選択しました(笑)
- 2013/09/17 (火) 05:17
- 黒玄前提他カプ
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