作品
痛いキス
「っ……!」
キスというよりは、噛みつくような。
歯列が当たって、口の中を傷つけるほどの口づけ。
時々、黒鷹はこんなキスをする。
まるで何かに追い立てられているかのように。
そういう時の黒鷹は狩猟動物なのだということをまざまざと見せつける。
俺を見据える目が怖い。
「……怒っているんだからね」
「痛…………!」
唇が離れたかと思えば、首筋に歯が立てられる。
「あの子ども相手では、君はいつものように治癒能力が効かないことぐらい、わかっているだろう?」
「ん…………っ」
黒鷹が俺の指先を巻かれた包帯ごしにそっと撫でてくる。
昼間に花白と一緒に料理をしていて、あいつが手を滑らせて落とした包丁を、反射的に受け止めたときにしくじって傷をつけた。
深くはないけれど、少し大きく切って。
黒鷹が苦い顔をしながら手当てをしてくれた。
首筋には痛みを与えるくせに、そこに触れる指はひどく優しい。
指先の痛みが和らいだのは、黒鷹の力だろう。
「痕が残ったらどうするんだい」
「大した傷じゃない」
「……私が嫌なんだよ」
さっきまで噛みついていた場所に優しく唇が落とされる。
もう痛みはなかった。
「勝手だとは思うけどね」
「うん?」
「私では君に残せないものを、あの子が残していくのが嫌なんだ」
嘆きさえ伺えるような声。
再び唇を重ねた感触は優しかったが、それだけに胸が痛かった。
2005/01/10 up
元は一日一黒玄で書いていたもの。
恋愛に関するいくつかのお題が配布されている、「キスのお題」からNo13。
- 2013/09/25 (水) 01:33
- 黒玄