作品
消せない傷み
あれから、何度目かの春が来た。
俺が自分で。
……この手で塔と黒鷹を消してしまってから。
あの時植えた小さかった桜の木は、もう寄りかかれるほどに大きく育っている。
「……そういえば花見をしていたとき、お前は酔っ払うたびに近くの木に
寄りかかっていたよな」
誰がいるわけでもないのに、つい呟いた。
――黒鷹。いつも言っているだろう!
酔うのなら適度にしておけと。介抱する方の身にもなれよ。
――ふふふ。玄冬はやっぱりまだ子どもだな。
酔うときは加減を考えずに酔っ払う!
それがお酒に対する礼儀ってもので、大人の飲み方なのだよ。
――それ、絶対違う。
……ああもう、寄りかからなきゃならないぐらい、しんどいなら……
――大丈夫だよ。寄りかかるのはね。木が暖かいからだよ
――……あ?
――ほら、君も寄りかかってごらん。木は優しく受け止めてくれるから。
「……あぁ、そうだな。確かに暖かい」
寄りかかった木は陽のぬくもりを帯びて、柔らかな暖かさで受け止めてくれる、
まるで黒鷹のように。
心地よさに目を閉じて、思い出すぬくもりに心が温かくなる。
けど、その黒鷹はもういない。
それだけが胸の奥で傷みを呼び起こす。
――……本当に。馬鹿な子だね。玄冬。
――え? 黒……鷹?
――いつまでも、そう引きずらないでくれたまえよ。
……親が子よりも先に逝ってしまうのは当然のことなのだから。
――……だが、俺がお前を……
――それ以上言うんじゃないよ。……私はね、結構幸せだったのだから。
――黒鷹。
――長い長い時間を生きてきたけど、君と過ごした日々ほど尊い時間はなかったよ。
私はそれで満足してるのだから。君に今をあげられたことを。
抱きしめられるような暖かい感触に思わず閉じていた目を開ける。
確かに黒鷹の声を聞いて、体温を感じた気がしたのは……夢?
何時の間にか木に寄りかかりながら、眠っていたのだろうか。
「ずいぶんとリアルなゆ……」
身体を起こそうとして、ふと舞い降りてきた小さな茶色がかった黒い羽根。
「まさ……か」
そんなはずないと思ったら、笑い声が聞こえた気がした。
――親不孝者。と言われたくなければ、笑って生きたまえ。
もしも、私にすまないと思ってるなら、精一杯今を生きておくれ、私の子。
「……有り難う」
幻かも知れないけど、会いに来てくれて。
まだ、傷みは消えないけれど。
それでも何時かお前にまた会った時に、胸を張っていい人生を過ごしたと言える様に。
せめて、笑おう。
お前がいつも笑いかけてくれてたように。
2004/06/17 up
雪花亭で配布されている
「花帰葬好きさんに22のお題」よりNo11。
花に捧ぐベースの話なのに、花白の存在感がないのはここの仕様です(笑)
- 2013/09/27 (金) 00:39
- 黒玄