作品
運命
――君はね、『玄冬』なんだよ。
まだ幼い頃にたった一度だけ。黒鷹に教えられた。
――君はこの世でただ一人。世界を滅ぼすことができるんだ。
自分はいないほうがいい。何度そう思っただろう。
――私は君を守るよ。どんなことがあっても。それが私の役目だから。
……だけど、疑問だった。
忌まわしいものとして認識されている『玄冬』。
どうして、黒鷹はその名前をそのままに俺につけたのだろうかと。
「君が玄冬だからだよ」
「……それじゃ意味がわからない」
「君はこの名前を呼ばれるのが嫌かね?」
「そういうわけじゃない……が」
物心ついたときから呼ばれている自分の名前だ。
違和感があるわけじゃない。
黒鷹に名前を呼ばれるのだって、好きだと思う。
ここが俺の居場所なのだと言われているような気がするから。
「それならいいじゃないか。
理由なんて言うほどでもない些細なものだよ」
「だが、これじゃ隠れている意味とかないんじゃないのか?」
守るのが役目だと言う割には、その名前では存在に気付いてくれと言わんばかりだ。
「……それでいいんだよ」
「? 黒鷹……?」
小さな呟きを漏らした顔は穏やかに笑っていて。
……それ以上は聞けなくなった。
***
君が『玄冬』であるというのは変えようのない事実だ。
この先何度生まれ変わっても、君は私の子。
『玄冬』としての立場は変えられないけど、その中でどう君が生きていくかを選択していくのかは、あくまでも君だ。
だから、忘れることのないように。
君が『玄冬』であることを。
私は何があっても君の味方なのだと、刻むためにその名を授けた。
たった一人の私の愛しい子。
どうか嘆くことなく、前を向いて生きてくれ給え。
運命なんてない。
道を選ぶのは君だよ、玄冬。
……どうか幸せになれる道を選んでくれることを。
2004/08/17 up
「花帰葬好きさんに15のお題」(閉鎖済)で配布されていた
お題のNo7を使って書いた話。
- 2013/09/27 (金) 01:09
- 黒玄