作品
光に潰れた目
時折、遠目に見るその光景は俺の中で眩い光だった。
優しい表情をした、養い親の黒の鳥と微笑み以外を知らないような終焉の子ども。
「どうして」
それを俺が壊さなくてはいけないんだろう。
あの場所を、空気を、微笑みを。
俺が奪わなくてはいけない理由があるというのだろうか。
「あれは『玄冬』だからです」
「ただの子どもじゃないか……」
「……あれが生き続けていては、この世界は終わります。
ただの子どもなどではありません」
納得なんてできない。
「抱えこむな。忘れてしまえ」
そう言ったのは、自らも初代救世主の血を引いていた、事情に詳しい幼馴染み。
「……あれは『玄冬』なんだ」
そう言いつつも、幼馴染みもどこかが苦しそうだった。
じゃあ、俺が死んだら。
あの子を唯一殺せるのだという俺が死んだとしたら?
あの光景を壊さずにすむ?
ずっとずっと、あの二人は笑っていられる?
二人のそんな様子を思い浮かべて、夢想を巡らせる。
もういい。
あの子とあの人から笑顔を奪いたくない。
彼らの想いを奪ってまでの世界に何の価値があるかと思った瞬間、いつの間にか城の一角から衝動にまかせ、この身を躍らせていた。
誰かの悲鳴が聞こえる。
地に落ちた衝撃に目の前が真っ白になる。
感じたのは痛みよりも安堵。
世界なんて知らない。
俺は俺の光を失いたくなかっただけなんだ。
ああ、もうこの目は光しか映さない。
眩い世界に、白い羽が見えたような気がした。
憧れていた世界はきっとすぐそこに……。
2005/05/27 up
元は一日一黒玄で書いたもの。
Kfir(閉鎖) が配布されていた「猟奇的な恋で5題」、No1。
黒玄←救世主。愛情に飢えて、軋んで壊れた救世主という流れ。
たまには黒玄前提救鷹に行かないような弱気救世主を。
- 2013/09/30 (月) 01:11
- 黒玄