作品
足掻くのなら私の胸で
「…………っ!」
「大丈夫かい?」
「え…………あ……く……ろた……か?」
「ああ、私だよ」
意識が澱むような感覚に吐き気がする。
揺らいだ視界の中で、黒鷹の心配そうな顔が飛び込んできた。
自分の身体が酷く冷たく感じる。
……汗を掻いて寝間着が肌に貼り付いているからか。
「……俺、うなされていたか?」
「かなりね。酷く汗を掻いてるよ。
着替えなさい。そのままでは身体が冷えてしまうから」
「ああ」
実際、既に冷えた感触は気分のいいものではなかったから、素直に黒鷹が出してくれた新しい寝巻きに着替えて、もう一度横になると、黒鷹も一緒に寝床に入ってきた。
「何だ」
「いやね、部屋に来たついでに添い寝をしようかと」
「ちょっと待て。酷く汗を掻いてるから……」
着替えはしたが、湯を浴びたわけじゃない。
だから、汗の臭いが気になったのだが。
「今更何を気にしてるんだい」
黒鷹はその一言で済ませてしまう。
笑った気配がしたかと思うと、抱きすくめられた。
「大丈夫だよ。
嫌な夢なんて見ないように、こうして抱いていてあげるから、お休み」
「……っ」
優しい言葉に思わず声が詰まって、言い返す言葉に困った。
だけど、次第に体温の心地よさに眠気が襲ってきて、結局は黒鷹に抱かれたままで意識が霞んでいった。
***
「……眠れたかな」
表情から察するに悪夢の類は見ないで済んでいるんだろう。
……感じてしまっているのかね。
もう時間がそこまで差し迫ってきていることを。
最近は今まで以上にこの子はうなされていることが多い。
「せめて眠りくらい、安らかであれたらいいんだけどね」
悩んだり考えたりするのは起きてる時で十分だ。
ぎりぎりまで足掻くといい。
そして選びなさい。
君の往く道を。
それまではこの胸で受け止めてあげるから。
2005/07/29 up
元は一日一黒玄で書いていた分。
烈華(閉鎖)が配布されていた「7つの暗い言の葉 Part2」から。
あんまり、というか全然内容暗くなってないですがw
- 2013/10/02 (水) 01:32
- 黒玄