作品
光を切り裂いた(黒玄前提救こく)
切り裂いた瞬間に自覚をしてしまった。
あの子は俺の光だったのだと。
***
何も知らない子供。
自分が世界を滅ぼす媒介になることも、いずれ殺される運命にあることも。
「だぁれ? おにいちゃん」
自分を殺す相手だとも知らず、無邪気に笑う。
愛されて育った人間にしかできないような、何の陰もない微笑み。
最初はただ妬ましかった。
「……君がそれを知ってどうするの?」
この顔を歪ませたらどうなるだろう?
駆られる暗い闇の誘惑。
首に伸ばした指は拒まれない。
ほんの少し力を籠めると眉根は寄せられたけど、苦しいとも言わない。
哀れみさえ感じられる目が気に障った。
「なんで、何も言わないの」
「だって悲しそうだから」
悲しそう? 悲しい道を辿るのはお前だろう?
指を離すと玄冬が逆に俺の首に腕を回してしがみついた。
「黒鷹もね、時々悲しい顔するの。だから抱き締めてあげるの。
そしたら笑ってくれるから。
ありがとう、大好きだよって。
おにいちゃんも抱き締めてあげる。ねぇ、まだ悲しい?」
遠い昔に玄冬を連れて逃げようとした救世主がいたって言ってたっけ。
愚かな行為だったとあの人は言ったけれど、俺はその時の救世主の気持ちがわかるような気がした。
どうしてこの子でなければならなかったんだろう。
春の陽だまりのような暖かい気持ちにさせてくれる子ども。
終焉の子どもだなんて、嘘だ。
終焉を招くのは……。
――有り難う。
最期の言葉がそれだった。
ねぇ、どうして、殺す相手に有り難うなんて言う?
辛い思いさせてごめんねなんて、お前が言うことじゃない。
「優しい子なんだ」
養い親の黒の鳥が悲しい目をして、ぬくもりの失せた子どもを抱く。
慈愛に満ちた声で、その額に口付けを落として。
「……この子は全てを赦すんだ。自分を疎んじる世界を」
俺は赦さない。
そんな風にしたこの世界を絶対に赦さない。
***
もう光はない。闇に堕ちればいい。
ただ一人の優しい子どもさえ、生かさないこの世界に死を。
全て塵と。
化してしまえ。
2005/05/10 up
花々(閉鎖) が配布されていた「気狂い10題」、No10。
花白にスタンスの近い、イレギュラーな部分のある救世主、かな。
某歌啓発ネタです。
- 2013/10/10 (木) 01:01
- 黒玄前提他カプ