作品
昨日またねって言って別れたのに(黒玄前提隊長子孫こくろ)
「またね。お兄ちゃん」
いつもの時間。
いつもの別れの言葉。
同じようにまた一緒に時を過ごせると疑ってもいなかったのに。
迎えた春の穏やかな日差し。
もうあの子どもはいない。
あれが最後に交わした言葉になろうとは予想もしていなかった。
***
「……どうして、黙っていたのですか。
時間が無かったのだということを」
「あの子に気取らせるわけにはいかなかったからね。
君は顔に出やすいから」
「…………」
「ほら。そんな風に。
……いつもと同じように過ごし、変わらぬ日常の中で終焉をと決めていたんだよ」
「そうだと……せめて知っていれば…………」
「知っていれば、何だね?
もっと時間を作って遊んでやったのに、とか?
それとも。あの子を連れて逃げた、とでも言うのかい?」
「それは!」
「……違うだろう?
何も変わらなかったはずだ。そうじゃないのかい?」
否定など出来ない。
黒の鳥のいうことは正しかったからだ。
玄冬を連れて逃げることはおろか、一歩外の世界に連れ出すことも出来るわけがない。
知っていたら何か出来た、と思うのは全ての片が付いた後の自分勝手な思いでしかないのだ。
思っていたよりもあっけなく終わってしまったからの感情で、最初の時点で結末がどうなるかというのを俺はわかっていたはずなのだ。
……変えられるわけもないことぐらい、十分に。
「言い方が少し悪かったな。責めているわけではないよ。
あの子を笑わせてくれたことに感謝しているくらいだから。
どうせ、あの人あたりからは止められていたんだろう?」
「……ご存知でしたか」
「そりゃあ、あの人との付き合いは私の方が遥かに長いからね」
玄冬との付き合いもね、とひそりと呟いたあたりに自分の未熟さを自覚した。
そうだな、今さらこうしていたら良かったと思ったところで、あの子どもの慰めにはなるまい。
俺は俺に出来ることをすればいい。
「……黒鷹殿」
「うん?」
「花を手向けても構いませんか」
「無論だよ。……来なさい。こっちだ」
――またね。お兄ちゃん。
あの言葉に応えてやれることを。
2006/夏か秋? up
花々(閉鎖) が配布されていた「あっけない死10題」、No4。
Stray Sheepシリーズの想定外での黒玄前提隊長子孫こくろ。
シリーズ外なので、こちらに置きましたがシリーズ番外編の花とあまり変わらない気が。
- 2013/10/10 (木) 01:04
- 黒玄前提他カプ
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