作品
花
※番外編というか、いきなりクライマックスっぽいので、ご注意を。
――桜、大好きだよ。だって、綺麗で優しい色をしている。
それをいった時の玄冬の顔こそ優しい微笑みを浮かべていて、和んだのを覚えている。
だから、これはほんの気紛れだ。
王宮の桜の木の1つの根元にあった折れた桜の枝。
誰かが故意に折ったのか、それとも何かの事情があったのか。
花をつけたままの綺麗な形で残っていたそれを無下にすることはないから、あの子どもにやろうと。
それだけの事だった。
喜んだ顔が見たかった。
だが、いつもいたはずの部屋には誰もいなかった。
部屋から出ないはずの子どもさえ。
「……まさか、な」
嫌な予感に一人首を振る。
そんなわけがない。
時が来たのではないだろう。
きっと、いつかのように養い親を探しにでもふらりと部屋を出てしまっただけのことに決まっている。
……そう思い込もうとしたときに、扉の開く音。
戻ってきたのかと振り向いたが、そこにいたのはどこか疲れたような顔をした黒の鳥ただ一人。
「……君か。あの子なら……もう戻らないよ」
その瞬間に鳴り響いた鐘の音。
それが何を意味するのか、分からない立場ではない。
どうして、と問うまでもないことだ。
だが、聞きたくなかった。
来たのが遅かったことを認めたくはなかった。
「見事な枝だね。あの子の為に?」
「……もう、無駄になってしまったがな」
「そんなことはないさ。あの子は喜ぶ」
黒の鳥が微笑んだ。
玄冬に対してでなく、俺に初めて。
「あの子は桜が大好きだからね」
血が繋がって無くてもやはり親子なんだな。
玄冬の微笑みと良く似ている。
「ついて来たまえ。あの子のところに案内するよ。
……それを手向けてやってくれないか」
「ああ」
微かな風に枝についた花がまるで返事をしたようにそよぐ。
有り難うという言葉が聞こえたのは、気のせいにしたくなかった。
2005/04/16 up
「花帰葬好きさんに15のお題」(閉鎖済)で配布されていた
お題のNo15を使って書いた話です。
Stray sheepの結末の一部っぽい話。
場面展開いきなりそこですか、暗いんですけど、というのはさておき。
一応、この流れ以外の想定もあるけど、書けない可能性が高いから置いてみました。
- 2009/01/01 (木) 00:00
- 番外編
タグ:[番外編][花帰葬好きさんに15のお題]