作品
第01話:夢見る翼
「その子を渡して貰えるかね。……迎えに来たんだ。
その子は残念ながら貴方方の元にいていい子どもではない」
また、玄冬が生を受けたのを知り、私は玄冬を迎えに来た。
幾度繰り返しても、あの子に久々に逢えることに胸が高鳴る。
私の大事な愛しい子。
しかし、当然事情を何も知らない生みの親は拒否の姿勢を崩さない。
生まれたばかりの子どもを護ろうと毅然と私を睨みつける。
「いや……何のことです? 娘は渡しませ……っ!」
「……しばらく眠っていて貰うよ。
目が覚めたら、貴方方から子どもの記憶は失せ……」
……娘?
今、この婦人は確かに娘と言わなかったか?
力を使い、婦人とその夫の意識を奪い、記憶の改竄をする。
そうして、彼らの脇をすり抜けて、小さなベッドに寝かされている赤子の所へ行き、抱き上げた。
「あー……」
赤子が目を開けて、私を見る。
紺青の髪と目。
外見は間違いなく玄冬。
何より惹かれあう本能が、この子が玄冬であることを告げている。
間違えようはずがない。
『玄冬』と『黒の鳥』である私たちは特殊な繋がりにあるのだから。
だが、抱いた感触はいつもよりも少し軽くて柔らかい。
多少、不躾かと思ったが身体に手を這わせて、さらに確認する。
……確かに今までと違った感触が異なる性別を示している。
「女の子……なのか、今の君は……」
「あー……あー」
「……これは驚いた。流石に女の子の君を育てるのは初めてだね」
何度も繰り返し、玄冬を育ててきた。
もう何度目かさえわからない。
だけど、それほど長く繰り返してきた中でも、女の子の玄冬というのは一度も経験がなかった。
「まぁ、いいか。
男の子だろうと女の子だろうと、君には違いないし。
……逢いたかったよ」
「んー……」
額にキスを落とすと表情が和らいだように見えた。
育児書を読み返さなくてはならないな、と思いつつも、いつもとほんの少し違う君に期待で胸が高鳴った。
服もいつもと違うものを揃えてみよう。
ああ、髪を伸ばしてみるのも良いかもしれない。
玄冬には違いないのに、性別一つ違うだけで新鮮だ。
……どんな風に育てよう、楽しみだよ。
私の玄冬。
- 2008/01/01 (火) 00:00
- 第一部:本編
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