作品
中盤(第二部)のラスト近く(玄冬視点)
※第二部進んでないので、先行ネタバレになりますが、
それでも構わないと言う方だけお読み下さい。すみません。
「……どうして、そんな穏やかな顔してるの」
わからない、というように。
戸惑う顔はいつかの花白を思い出させる。
「満足しているからだろうな」
「俺は今からあの優しい空間を壊そうとしているんだよ?」
優しい空間、か。
……そうだな。
あれほど満たされた時を得られたのは、身に過ぎた幸福。
殺して続けてくれと親に願ってしまった身には贅沢すぎるほどに。
「……桜璃が生まれてからの数年、十分過ぎるほど幸せだった」
今回の生を受けて24年。
珠玉の時間だった。
己が『玄冬』であるということを忘れてしまうくらいの。
「ずっと黒鷹が傍にいて、慈しんで育てられて、愛されて。
何度も繰り返してきたけど、まさか子どもまで持てるとは思わなかった」
「……」
「たった一人の娘だ。桜璃を死なせたくない」
恐らくは後にも先にも。
それは予感のような確信だ。
黒鷹との間に出来た大切な大切な娘。
桜璃さえ、無事に過ごしていけるなら。
俺はどうなろうとも構わない。
「自分はどうなの。死にたくないとは?
子どもの傍に居たいとは思わないの?」
桜璃が成長していくのを、もっと見続けたかったのは否定出来ない。
だけど。
「この世界が滅びたら、桜璃は生きていけない。
あの子は俺達の娘だけど、『黒の鳥』でも『玄冬』でもないからな。
でも、世界が続いていくなら。
桜璃は黒鷹が守ってくれる。
あの子が……天命で死ぬまでの間は絶対に」
知っている。
俺にとって桜璃が何にも代えがたいように、黒鷹にとっても桜璃は何よりも大事だということを。
黒鷹と桜璃を、誰より何より想う。
想いながら逝ける俺はなんて幸せなのだろう。
「……本当に……君はっ」
擦れた声。揺れた空気。衝撃の前にそっと目を閉じた。
2005/07/04 up
絵日記より。中盤(第二部)のラスト近く(救世主視点)の逆視点。
本編に組み込むのはどっち側かはまだ不明。
- 2008/02/01 (金) 01:06
- 第二部:番外編
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